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侵入者2
「……仕事なんですけど」
ひとり残された僕は、十川さんを押し退けパソコンのほうに体を向き直した。
「女性と楽しそうに話していたのに?」
「少し休憩していただけだよ。うるさいし、隣の先輩と話すなんてよくあることだろ」
「俺も少し休憩ですよ」
十川さんは何の躊躇いもなく西山さんの椅子に座った。
「自分の部署でもないのに、当たり前のように座って休憩するんだ?」
「俺は村田 さんに用事があったから来たんです。用事の後に少しここに残ったって誰も責めませんよ。ここの人たちみんな優しいですしね」
「そういうことでもないけどね」
ちらりと視線を上げ、斜め左の席に座っている村田さんを見ると、十川さんを庇うかのように「うんうん」と何度も頷いていた。
どうしてみんな十川さんに優しいの。こんなに怪しいのに?
「ちゃんと用事があったのは分かったけどさ、だからって僕のところに来なくて良いよね」
「そんな冷たいこと言わないでくださいよ」
十川さんは僕の机の端に置いてあったパイの袋を広げると、うさぎのイラストをじっと見つめ、「これ望月さんと全然違う。望月さんもこんなふうに笑ったら可愛いのにね」と爆弾を落とした。
僕だって自分が大好きな人たちの前ではニコニコ笑顔を見せているけれど、お前の前だから笑えないんだろ! と腹が立った。
ただ、それに反応すると彼の思う壺だろうから黙ったまま仕事を再開した。
何も反応しない僕とそれに何も突っ込まない彼の間に居心地悪い沈黙が流れ、カタカタと文字を打つ音だけが響く。
数分した後、もうそろそろ何も言わずに帰ってくれるだろうかと、十川さんに視線を向けると、机に肘をついてこちらを見ていた。
ほんのりと口角を上げて、目尻も少し垂らして、想像よりも嫌味のない、優しい表情をしている。
「何か反応したら負けだと思って無視をしてみたけれど、もう大丈夫そう、それにしてもいつになったら帰るのかな、そろそろ自分の部署に戻ってくれるかな、の表情ですか?」
「はあっ!?」
心を読まれたかのような発言に思わず声を上げると、クスクスと静かに笑われた。どうしたらここまで嫌な人間になれるんだ?
「そんなに怒らないでよ」
「じゃあ怒らせないで」
睨みつけると、前髪をかきあげた十川さんとしっかりと目が合った。
相変わらず顔だけは良い。だから愛想がなくても、蓋を開けてみたらこんなに意地悪でも、モテるんだろうな。
……まあ、みんなは意地悪な部分は知らないのだろうけれど。
「望月さん、何?」
「……別に」
目を細めて彼を視界から消し、そのまま顔をくしゃりとして見せると、また十川さんが笑った。
笑えば良いってものじゃあないのに。
「そういえば、望月さんって甘いもの好きですよね?」
「……。」
十川さんの問いを無視していると、ピロンと通知音がした。昨日ゲームをするときに消音モードをオフにしたせいで音が出てしまったようだ。
慌ててオンに設定し直そうとスマホを手にすると、画面には宗治郎さんからのメッセージが表示されていた。
“会う日が決まったよ”の言葉だけが見えていて、つい押してしまいすぐに既読をつけた。
全ての内容を確認すると、僕が清水さんに宗治郎さんの連絡先を教えた日に、さっそくメッセージを送ったようだった。
そこから何回かやり取りをし、来週に会う予定らしい。
「さっきもジャムパイ食べてましたしね。苺がやっぱり一番?」
「……。」
自分が望んだことなのに、いざ進んでいくふたりを見るとやはりすぐには整理できないのだと思い知らされた。
できるだけ表情が曇らないようにすること精一杯なのに、十川さんはくだらない質問を続けてくる。
……さっきから、とにかく耳障りだ。
「好きなのに無視するんだ?」
「……好きでも嫌いでも、十川さんには関係ないよね」
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