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侵入者8
そんなことを思いながらしばらくの間十川さんを見つめていると、その視線に気づいた彼が僕のほうを見た。
さすがに見ていたことを揶揄われてしまうだろうと、慌てて視線を逸らしたけれど、頭を撫でられ「さっきのこれ、お代わりいりますか?」と気遣ってくれる。
お酒が入ると本性が出る人もいるのに、彼の根っこは本当に優しい人だけなの?
シラフのほうが意地悪ってどういうことだよ。
「ありがとう、ほしいかも……」
素直に料理を求めると、彼はまた笑った。何の悪い意図もないような爽やかな笑顔を向けられる。彼の笑顔に慣れていないから、お皿を受け取る手が震えてしまった。
そんな状況に、「楓くんと楽くん、仲直りしたの?」と清水さんに聞かれた。
「僕たち別に喧嘩をしていたわけではなくて」
「そうなの?」
「話したこともこれまでなかったんで」
「ん? その割に楽くんの楓くんへの関わり方は積極的だね。じゃあこれから仲良くなっていくって感じかあ」
「いや、僕は仲良くはなりたくなくて……」
「俺と仲良くなりたくないの?」
さすがに隣に座っているのだから、会話が聞こえていたようだ。ジョッキを握ったままの十川さんが唇を突き出し、まるで拗ねたような表情をしていた。
いつもならそんな顔をされたところで無理なものは無理、とそう返すのに、今日は僕もお酒が入っているからか、少しだけ申し訳ない気持ちにもなった。
あんな出会いじゃなければ、歳も近いしそれなりに仲良くできていたのかもしれない。
「一応ね、楽くんは可愛い子なんですよ」
フォローするかのように、清水さんが十川さんを突く。
「顔が良いってだけじゃあダメですからね」
「ははっ、俺の顔は良いって思ってくれてるんだ」
しまった、と思った頃には遅く、思わず褒めてしまったことを嘆く。
そんな僕の頬に、さっきまでジョッキを握っていた冷たい手で彼が触れた。
身を捩ると、彼がふにゃりと笑う。
「楽くん、そこまで酔わないにしても、そろそろやめたほうが良いよ」
清水さんに注意されたものの、いつの間にか注文していたようでまた、彼の元へビールが運ばれてきた。
時間も結構経ってそろそろ帰る頃だろうと、誰か止めてくれる人がいないかみんなのほうを見たけれど、十川さんとは比にならないほどに酔って騒いでいる大人が5人いるだけだった。
西山さんもお酒に強いと思っていたのに、顔を真っ赤にして笑っている。
一体何杯飲んだのか、そして係長が支払う金額はいくらになるのだろうか。
やれやれとため息をつくと、唯一酔っていない清水さんが「みんなすごいね」と笑った。
「そういえば大貫さんと連絡取り合っていて、先週に会って来たよ。それまでメッセージのやりとりしかしていなかったけれど、会って少し話しただけで良い人だってのが分かった。楓くんのこともすごく良い子だって褒めていたよ」
普段通り会話できるメンバーが僕たちだけになったことで、自然と宗治郎さんの話題になった。
彼から会う予定だと連絡が来て以降、こちらからも連絡することはなかったから、ふたりがどうなったのかはずっと気になっていた。
この話が聞けて嬉しく思いながらも、それでも半分以上は聞きたくない気持ちもある。
ふたりの姿を想像できて辛いし、隣にいる十川さんに聞かれたくない。
「あ、会われたんですね、良かったです。宗治郎さんから会うことになりそうって話は聞いてました。彼、本当に良い人なんですよ」
それでも僕が始めたことだから、不自然に話題を逸らすこともできないし、どうか何も言わないでと、十川さんに祈りながら返事をした。
初めて会っただけなら、まだ付き合う話にはなっていないのかな。でもそれも時間の問題で、あっという間にそうなるんだろうな。
「少しずつお互いを知っていこうねと話していて、今月末もまた会うことになったの」
清水さんの声色や瞳の輝きから、彼女がもう宗治郎さんに好意を持っていることは明らかだった。
彼女がこの反応であれば、きっと宗治郎さんも同じように好印象を抱いたはずだ。
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