20 / 63
侵入者9
清水さんの話が終わると、頼む、頼むと何度も心の中で祈りながら、静かになった十川さんのほうに視線を向けた。
彼はじっと僕たちを見て、しっかりと話を聞いていたかのような表情をしていた。彼があのときに知りたがっていた僕の意図を探られるかもしれないと構える。
それなのにただ、僕を見て微笑んでいるだけで何も言ってこない。
本当は思ったよりも酔っていて聞こえていなかった? それとも本当にその意図を探る目的はなくて、仲良くなりたいだけなの?
「今までも楽くんがうちに来てから何度か飲み会はしているんだけどさ、今日はまだ愛想があるほうだよ。いつも人の輪に積極的に入らない子だったし。見えにくい可愛げを私なりに何とか拾っていただけ」
「可愛げを何とか拾っていただけって、清水さん面白すぎです」
「そうでもしなきゃ生意気だったんだから」
はははと笑うと、さっきまで黙っていた十川さんの眉間に皺が寄った。今日は反応が素直な気がする。
これも彼の可愛げなのか。その皺を指で押すと、もっと皺が寄り、僕は初めて彼の前で大きく笑った。
やはり僕も酔っているのかもしれない。彼の可愛いところを拾ってしまったようだ。
笑う僕に十川さんが目を細めながら、「俺、本当に望月さんと仲良くなりたいだけなんですよ……」と呟いた。
「え? 酔ってる?」
「酔ってるかもって、言い訳して良いですか?」
そう言いながら、少しだけ眠そうだった目に力がこもる。言い訳にするとか言いながら、本当は大して酔っていないじゃん。
「……じゃあ酔っていることにしてあげる」
でも僕が、シラフじゃないのかも。
清水さんとの話に触れられたくないと思いながらも、十川さんのことに気を取られていなかったら、彼女が宗治郎さんの話をする間、耐えられなかったかもしれない。
だから今日は、少しだけ感謝もしている。
僕はジョッキに残っていたビールを一気に飲み干した。
これで僕も酔ったと言い訳してやるから。
「俺、あんたに嫌な絡み方しちゃったけど、仲良くなりたいだけだから」
邪魔してはいけないとでも思ったのか、清水さんがトイレと言って立ち上がった。
残りの5人は僕たちにお構いなく盛り上がり続けていて、騒がしい空間には似合わない空気感の僕たちが浮いているように思った。
彼の眉間に触れていた指は、いつの間にか彼に握られており、ジョッキに触れて冷たくなっていた手も、お互いの体温が混ざり合う。
「俺、本当に、あんたの言うように間違えちゃった」
人差し指だけだったのに、彼は僕の手全体を包み込んだ。彼に対する拒否的な感情を取っ払ったら、むしろ居心地が良いくらい馴染む手の感触に、僕も少しだけ握り返した。
この人、本当になんなんだろう。僕のほうがこの行動の意図を知りたくなってしまっているように思う。
避けずに、他の人同様に彼に接したら、今より楽しい生活になるのだろうか……。
「俺のこと嫌い?」
十川さんの瞳が揺らぐ。それにつられて、僕の心もざわついた。
「……嫌なことしなければ、嫌いじゃないよ」
言うつもりのない言葉が、僕の気持ちとは関係なしに出てくる。あれだけ嫌だと言ってきたのにね。
「嫌なことって?」
「馬鹿にしたり、揶揄うようなこと」
「そういうつもりではなかったんだけど、もうやめます」
「うん」
指先を絡めるようにして彼が遊ぶ。
「これは嫌じゃない?」と聞かれ、「嫌」と答えると、遊ぶのはやめて静かに握るだけになった。
握るのはやめないんだ。まあ僕が最初に拒否しなかったからか。
「じゃあ、もう俺のこと避けない?」
「……分からない」
「はは、なんだ。分からないんだ」
くしゃりと笑った彼の目尻が、宗治郎さんのと重なった。こういうところに弱い。
「まあいいや、また来週からも会いに行きますよ。今日飲み会ってことは、忙しいの少し落ち着いたんでしょ?」
「……まあ、それは」
「また、甘い物持っていきますね」
「……ん、」
優しく見つめられて落ち着かなくなった僕は、触れられていた手をそっと離した。
ともだちにシェアしよう!

