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日常の変化3
夜、「今日の写真です」と、十川さんからランチの写真が送られてきた。
これまではどこかに載せるわけでもないのに、何となくおいしそうな料理の写真を撮り、ただフォルダに保存しているだけだった。
けれど、十川さんとランチに出かけるようになってからは、アルバムを作り、彼と共有している。
まあ僕が撮るよりも、十川さんからの写真のほうが多いし、彼の撮り方が上手なのもあって、今日を含めこれまでのほとんどは彼に任せてしまっていたけれど。
「今日のもおいしかったな」
わざわざ伝えていたわけでもないのに、今までの僕の反応から十川さんに洋食好きとバレていたから、今日のパスタはおいしいと積極的に言えなかった。
やっぱり好きなんだ、と思われるのは恥ずかしいと思ったから。
けれど、それを意識して薄めの反応になってしまったことも、彼にはバレてしまっているんだろうな。
何度も揶揄うように「おいしい?」と聞いてきていたのもそのせいだろう。
本当は明日もまた行きたいくらいにおいしかったけれど、それを次の機会に素直に言えるわけもないから提供時間の早さをメインに推してみるか。
結局メッセージでも特に感想は伝えることなく、彼にはありがとうのスタンプを返した。
それから、追加された写真をスクロールし確認する。
今日だけでも20枚ほど追加されていた。
「ふっ、撮りすぎでしょ」
これらの写真は送られて来た日以外に見返すわけでもないのに、まるで丁寧に思い出を保管しているみたいで、たまに恥ずかしくてくすぐったくもなる。
でもきっと、彼には特に深い意味はないのだろう。
SNSに載せるために撮る人も多いし、彼も僕が知らないだけで料理の写真を載せているのかもしれない。
「何かないかなあ」
これまでは十川さんに任せてばかりだったけれど、これからは僕もおいしそうなお店を見つけたらここにURLを載せていこう。
ノートに保存しておけば、その中から彼が行きたい場所を選んでくれるかもしれない。
自分から「今日の行き先は内緒だけど、僕に任せて」と言うのは恥ずかしいから、候補をあげて彼に選んでもらったほうが良い。
そんなことを思いながら何となく送られてきた写真を見ていると、料理だけではなくて僕の顔が写っているものがあった。
料理じゃなくて僕を撮ってるよね!? と言いながら、やめてもらいたくて手を伸ばしたときの写真だ。
基本的には誰かのフォルダに自分が残ることが嫌だし、ちゃんと彼にはやめてと伝えたし、本当にやめてほしかったはずなのに、写真の僕はどこか嬉しそうにも見える表情をしていた。
「……なんだよこれ、楽しそうじゃん」
十川さんがしつこく撮っていたのは嫌がらせとか揶揄いとかじゃあなくて、僕から拒否的な態度が伝わらなかったんだ。
こんな表情でやめてと言われても、何の説得力もない。
……いやだな、これ恥ずかしい。でも恥ずかしさとは別に、よく分からない気持ちもある。
もちろん嬉しいわけではないし、かと言って嫌でたまらないわけでもなくて。
言語化してもこれくらいの表現にしかならない。……なんだ?
「あーやだやだ、考えるのやめよう」
これ以上考えるべきではないと頭を横に何度か振り、それから切り替えるためにSNSのブックマークを開いた。
確かここに、いつか行きたいお店があったはずだ。
犬や猫の写真、観光地の投稿ばかりをスクロールしていると、おいしそうなお店がいくつか出てきた。
彼とのノートにURLを貼り付ける前に検索し直し場所を確認してみると、どれも職場近くではなかった。外勤の後なら行けそうか、くらいの距離。
元々十川さんと行きたくてブックマークしていたわけでもないし、そうか、これは使えないか。
それでもひとりでも行かないし、いったんふたりのノートに載せておく? とも思ったけれど、そうするとなんだかわざわざ仕事以外の日に会おうと提案しているように思われそう。
それはちょっと嫌だな。
友人ならそもそもこんなことを気にしなくて良いはずなのに、十川さんにそれはやっぱり違うような気がした。
友人ではない? 会社の人? ただの後輩だから?
自らプライベートで誘うのは遠慮してしまう。
せっかく良い場所を見つけたのにな、と思いながらブックマークの画面を閉じた。
メッセージの履歴へと戻ると、宗治郎さんの名前が随分と下のほうになっていることに気づいた。
宗治郎さんは好きな人である以前に、先輩であり、友人のような存在でもあったから、僕からも誘っていたのに。
いくらしばらく連絡をとってないからとはいえ、ここまで下がることはなかった。
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