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日常の変化5
◇
「望月くん、あの件順調?」
「あ、はい。さっき出来上がりました」
「おお、早いね。じゃあ明日、村田さんが来たらデータ渡しといて」
「分かりました」
西山さんに声をかけられ、念のため締切り日を確認するためにスケジュール帳を開くと、25という数字がバンッと視界に入って来た。
……数秒考えた後、宗治郎さんの誕生日だと思い出す。
びっくりした、すぐに出てこないなんて。あれだけ毎年勝手に楽しみにしていたのに。
「望月くん、大丈夫? ぼーっとしているけど」
「あ、大丈夫です。すみません」
「もう定時過ぎてるから帰りなね」
じゃあお先、と西山さんが立ち上がり、あっという間に帰ってしまった。
よほどのことがない限り、いつも定時に帰っていく西山さんは、帰り際必ず声をかけてくれる。
良い先輩だ……。
少しだけ動揺したままで僕も帰る支度をし、後少しだけ残ると言った周りの先輩たちに頭を下げて出た。
まっすぐ帰ろうとエレベーターに乗り込んだけれど、どうしてか十川さんの顔を見たくなって、ドアが閉まる前に降り、彼の部署へと向かった。
いるかどうかも分からないのに、とそのまま帰ることができず、いないならいないでこの目で確かめたいと思ってしまった。
……変なの。変、なの。
「望月さん!」
「えっ、あ……」
もう少しで着く、というところで後ろから声をかけられ、振り返ると十川さんがいた。
この顔が見たかったはずなのに、会ったら会ったで何を言い、どんな反応をすれば良いのか分からない。
肩にかけていた鞄のストラップ部分を掴み、一歩下がった。
ただ衝動のままに来てしまったけれど、用事もないのにどう誤魔化せば良いんだ。
「帰る前に用事?」
「いや、……用事というか」
「もしかして俺ですか?」
「いや、えっと、」
「あ、違いました? 誰か呼びます?」
「いや、そうじゃなくて……」
「ん?」
さっきから「いや」しか返せない僕に対して十川さんがずっと優しい表情と声色で対応してくれる。
十川さんに会いに来たのだから「いや」は間違いなのに、それ以外の言葉が出てこない。
「顔を見に来た」は素直に言えないし、「この後ご飯どう?」と誘うのもいきなりすぎるし。
「望月さん? 大丈夫?」
十川さんが手を伸ばし、俺の頬に触れた。視線がぶつかると同時に、大きく心臓が跳ねた。
何か言わなきゃ。何か、何か……!
「誕生日!」
「え? 誕生日?」
「……あ、いや、」
出て来た言葉が「誕生日」だなんて。どうして咄嗟の一言がこんなにどうしようもないものになってしまうんだろう。
彼と合わせていた視線は下がり、ぼーっと遠くを見つめた。
十川さんの時間を潰してまで、こんなにはっきりしないやりとりをすべきでないのに。
……もう謝って早く帰ろう。
「ごめん、忘れて。何でもない。今日は残るの? 頑張ってね」
視線を逸らしたままボソボソと呟くと、目の前の彼が笑い始めた。
「何? 誕生日がどうしたの? 忘れられないからちゃんと教えてくださいよ」
「……いや、その、」
「もう誤魔化すのはなし。望月さんの誕生日は5月でしたよね? だから望月さんの誕生日の話でもないんでしょ? なのに誕生日って気になるじゃん。もしかして俺の?」
どうして僕の誕生日を知っているの、という疑問だとか、勝手だけれど今日はもう様子がおかしいからと見逃してくれても良かったのでは、と責める気持ちを抱えながらもう一度視線を合わせた。
誤魔化しようがないし、早く伝えて早くこの場を去ったほうが良いに決まっている。
わざわざ帰る前に十川さんの顔が見たくなった、よりも、誕生日を聞きに来たことにしてしまおう。
どちらにしても変だけれど、聞きに来たほうがマシだろうし。
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