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日常の変化6
「知り合いがもうすぐ誕生日なことに気づいて、そういえば十川さんどうだったかなって気になったの。でもこのタイミングで聞くものでもなかったなって。なんかごめん」
言い訳するかのように早口になってしまう自分に、さらに恥ずかしさが増す。
どこまでもみっともなさすぎる。
「今日の望月さん、いつもより可愛くて面白いね。俺の誕生日は8月末ですよ。30日」
「え! もうとっくに終わってるじゃん!」
自分で招いたものの、さっきまでこの空気感に耐えられなかったのに、十川さんの爆弾発言によって途端にどうでも良くなってしまった。
爆弾と思っているのは僕だけかもしれないけれど、でもさすがにこんなあっさりと過ぎてしまっているのは驚いても仕方がない。
接点ができてからの彼の最初の図々しさを知っているだけに、これは予想外だった。
誤魔化してばかりだった僕が急に声を張り上げたからか、十川さんがまた笑う。
「ねえ、今日何なの? 望月さん変だよ。そんなに驚くこと?」
「だって、真っ先に言って来そうなのに」
「祝ってよって言ってくると思ってたの? さすがに自分の誕生日はアピールしませんよ」
「えっ、なんで?」
8月30日なら確実にランチの時間が始まっているし、打ち解けて来た頃なのに。
色んな話をしてきたと思っていたけれど、こういう些細なことは共有できていなかった。
それにしても「俺、今日誕生日なんですよ」くらい簡単に言ってくれたら良かったのに。
考えながら眉間の皺が寄っていたようで、ほぐすように指をぐりぐりと押し付けられた。
もう笑っている彼はいなくて、少し眉を垂らしてこちらを見ている。
……その顔、何。
「お祝いしろって押し付けるみたいじゃないですか。望月さん、なんだかんだで色々考えてくれそうだし」
「押し付けているなんて思わないよ。十川さんって変なところで遠慮するんだね」
「だって望月さんにもう嫌いって言われたくないからね」
「さすがに誕生日の話で嫌いとかはないけどね。過ぎたけど、まだ2ヶ月弱だからセーフ。何かほしいものある?」
最初は十川さんに対して冷たい態度を取っていたからそう思われるのかもしれないけれど、そんなことないのに。
だって今、教えてもらえずに過ぎたことでこんなにショックを受けているんだから。
……本当に、何でか分からないけれど、相当ショック。今日の僕、やっぱり変すぎる。
「プレゼントくれるんですか?」
ふっと、彼の口角が上がった。それでも眉は垂れたまま。
僕だけじゃあなくて、彼も変なの。
「……うん、高いのはダメだよ」
「じゃあ、今答えなくてもいい? いざというときにこのカードを使えるようにしておきたいんで」
「いざというときって?」
「そのときが来たら言うから」
「何が来るの? 分かんないけど、年内にしてよ。じゃないと来年の誕生日が来ちゃうよ」
「むしろ数年分ためて、豪華なプレゼントもらおうかな」
「それはやめてよ」
はっきりしないで結局誕生日の話題で誤魔化してしまった僕と、そんな僕に付き合ってくれながらも、真意よりも浅いところでしか会話をしてくれない十川さん。
居心地が悪いわけではないのに、どうしてか落ち着かない。
本心は? と聞いたところで、僕も自分の本心が分からないのに、それを彼にだけ求めるのも違う。
「まあ、じゃあそのうちね。来年は俺も望月さんの誕生日、堂々と祝いますね」
「……あ、うん」
「何かよく分からないけれど、他の人に用事はなかったってことですよね? じゃあ俺もこれで。望月さん、気をつけて帰ってね」
「変なことで引き留めてごめん。十川さんも残業頑張ってね」
「ありがとうございます、また明日」
「……また明日」
最後にぽんと僕の頭に手を乗せ、それから手を振って戻って行く彼に、ほとんど丸まったままの手で僕も小さく振り返した。
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