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日常の変化7

◇  金曜日の夜、感染症でしばらく来られなくなった人の分の仕事がどうしても終わらず、残業をすることになった。  困ったときはお互い様なのと、今日は宗治郎さんの誕生日だったから、家で過ごすよりも仕事をして気を紛らわせたほうが良い。むしろありがたい気持ちすらある。    でも、一緒に仕事を消化するはずだった西山さんは、どうしても外せない用事があるからと先に帰ってしまった。他の人も上司も皆んな用事があって帰るか外勤先から直帰かで、滅多にないひとりで残業だ。  ゆったりとした気持ちで働けるけれど、周りが暗くなっていく中で、ひとりは少し怖い。  こんなこと、恥ずかしいから誰にも言えないけれど。  19時を過ぎたところで、近くのコンビニで夕飯を買って来た。  来週頭には終わりそうだし、あまり遅く残り過ぎなくても大丈夫かな。21時には帰ろう。  もらった箸を割り、きれいに真ん中で割れなかったことを悔しがりながら、じんわり温かいお米を口に入れた。  久しぶりに買ったお弁当だったけれど、とてもおいしく感じで驚いた。  少し大変な状況だから、お弁当ってだけで染みるのかもしれない。   「ふう……」  半分以上食べたところで、スマホの画面を開いた。今のうちに宗治郎さんにメッセージだけでも送っておいたほうが良いかなと思って。  家に帰ってから送ったら遅いし、何よりそこからまた気持ちを揺さぶられても困る。  でもどうしても送らないという選択肢がないから、早めに済ませられたほうが良いだろう。  これまでは、宗治郎さんと出会ってから毎年欠かさず連絡をしていたのに、清水さんを紹介して以降、メッセージや電話のやり取りが減った。  加えて食事にも行かなくなってしまったから、さすがに態度が悪すぎるように思う。  トーク画面を開き少し悩んだ後、宗治郎さんへメッセージを送った。 “お誕生日おめでとうございます” “素敵な1年になりますように”  おめでとうのスタンプを添え、シンプルな内容にした。久しぶりの連絡がたったこれだけなのは寂しいけれど、でもこの寂しさが増え続けるよりは良い。  きっと今こうして距離を置くことが、これから先の自分の人生を助けてくれるはずだから。    ふうと息をこぼした数秒後、スマートフォンが振動し、メッセージではなく電話がきたことが分かった。  宛先を確認すると、宗治郎さんと表示されていた。  メッセージを送った直後の電話を無視するのは不自然すぎるだろうか。  でも今後、宗治郎さんのことを恋愛として諦めて整理したいだけで、縁を切りたいわけではないから、きっと出ておいたほうが良いんだろうな。  それにしても、誕生日に僕に電話をかけてくるなんて、宗治郎さんはひとりで過ごしているのだろうか。  清水さんとの関係がどうなっているのか確認していないけれど、一緒にいて僕に電話することはなさそうな気がする。  だとしたら、畠中先輩たちと過ごしているのかもしれない。畠中先輩を含め、宗治郎さんたちの代は仲が良かったから、関係が続いていると聞いているし。  色んなことを考えながら、長いコール音の後に電話に出た。  こちらからかけたらすぐに出てくれる彼と違って、僕はいつも自分勝手だなあ。 「もしもし?」 「もしもし。楓、久しぶりだね。元気してた?」 「はい、なかなか連絡できずすみません。変わらず元気ですよ。宗治郎さん、お誕生日おめでとうございます」 「ありがとう。今、何してたの?」  店内に流れていそうな音楽が聞こえることもなければ、畠中先輩たちの騒がしい声もしない。  やっぱりひとりで過ごしているのかな。  そんなことを思いながら、今職場に残っていること、それから最近の何気ない話をした。  わざとらしくない、心地よい共感をくれる彼の、たまに漏れる笑い声に懐かしさが込み上げた。  10分近く話をしたところで、突然「代わって」と女性の声がした。  誰なのか考える前に「もしもし、楓くん?」と名前を呼ばれ、その女性が清水さんだと分かった。 「お疲れ様です……!」 「お疲れ様。そんなにかしこまらないで。まだ残って仕事しているんだね。大丈夫?」 「あ、はい。大丈夫です。清水さんは……? お祝い、ですか?」 「あ、そうだよね。突然ごめんね。あのね、実は、大貫さんと付き合うことになったの」 「えっ、あ、そうなんですね! おめでとうございます、って言葉が適切なのかな、分からないけれど、良かったです。嬉しい」  ショックでパニックになったわけではないけれど、動揺から心臓が激しく動く。   望んだことなのに、覚悟もしていたのに、いざ突きつけられると結構キツいかもしれない。

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