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日常の変化8
「ふふ、ありがとうね。楓くんにさ、大貫さんとのこと、こまめに伝えるのは違うかなあと思ってあまり話してこなかったけれど、出会わせてくれてありがとうね。素敵な人を紹介してくれた楓くんには伝えないとと思って」
清水さんの控えめな、でも確かに弾んだ声がした。
最初に紹介してから時間が経っていたことが、より彼らが時間をかけてお互いを知っていった結果に結ばれたと分かる。
そうして愛を育めてきたことも、そらがこれからも続いていくことも、何もかもが羨ましく思えた。
「そんな、こちらこそありがとうございます。宗治郎さんすごく良い人で、清水さんも良い人で大好きだから、おふたりがそういう関係になってくださったこと、とても嬉しいです」
上手に伝えられたかは分からない。みっともなく声が震えていたかもしれない。
清水さんの幸せそうな声に胸が痛かったけれど、奥のほうで、まだ小さくても、素直に嬉しく思う気持ちも確かにあった。
それが感じられるくらいに、宗治郎さんへの思いを整理できつつあるのなら嬉しい。
少しずつでも、前に進めているんだ。
最後にもう一度宗治郎さんに代わり、「お誕生日もお付き合いもおめでとうございます」と伝えた。
ありがとうと答えた彼の声は、やっぱり大好きで優しい声だった。
「楓、落ち着いたらまたご飯行こうよ。楓に会いたいからさ」
「はい……、ぜひ」
「じゃあ、またね」
電話を終えた後、少しだけ涙で視界が滲んだけれど、たったの一粒も溢れ出ないように拭い、誰もいないのを良いことにそこそこ大きな声で「わー!」と叫んだ。
本当はもっと大きな声を出したかったけれど、まだ他の部屋に誰かが残っていたら飛んで来そうだったから、そこは理性が働いた。
それから頬を数回叩くと、ひとりの空間にパシッと音が響き、痛みが頬を刺した。
「よし……!」
気持ちを切り替えてあと少しだけ仕事を頑張ろうとパソコンに向かうと、「望月さん、どうしたの」と知った声が聞こえた。
急に話しかけられて驚いたとか、変なことをしているところを見られてしまった恥ずかしさとか、そういうことは気にならなかった。
ただ今振り返ってその声の主を視界に入れでもしたら、耐えられなくなって泣いてしまいそうだと怖い。
「清水さんから連絡があって、望月さんがまだ残ってるって聞いたから、走って来ちゃった」
「そっか、びっくりしたじゃん」
「ねえ、望月さん。何で俺のほう見ないの?」
「……別に、ちょっと忙しくて」
放っておいてくれるわけもなく、十川さんの足音が近づいてくるのが分かった。
それでも振り返って取り繕うことはできない。
宗治郎さんと清水さんのことが悲しくて、というよりも、今このタイミングで十川さんが来てくれたことにほっとしてしまった気持ちがある。
彼に優しく声をかけられたら、その胸に飛び込んでしまいそうで、それが怖い。
「望月さん?」
肩を掴まれ、抵抗もできずに彼のほうを振り返ると、眉を垂らしてこちらを見ている十川さんがいた。
「どうしたの? ん?」
「……っ」
「嫌なこと、あった?」
隣の西山さんの椅子に座った十川さんは、僕の椅子をくるりと回し向き合った。
膝がぶつかり、両手を握られる。彼に視線を合わせられると、とうとう耐えられなくなった僕の頬を涙が伝った。
「何も言えない?」
「……ん」
「そっか、じゃあそれは聞かない。俺は今、ここにいても良い?」
「……ん、」
やはり強引さはなく、僕のペースに合わせてくれようとする彼の気持ちが素直に嬉しい。
涙がぽつりぽつとりと流れる度に、彼はそれを拭ってくれる。
自分で擦ったら間違いなく腫れてしまうだろうに、彼の触れ方はあまりにも優しかった。
それから、「涙が止まらないね」と微笑み、いつまででもそばにいるよとそんな雰囲気でいてくれる。
でもそれに申し訳なさを感じることもないくらい自然な寄り添い方で、僕は彼の優しさに身を委ねてしばらくの間我慢することなく涙を流し続けた。
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