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好意の在処1

 年末が近づくにつれてさらに忙しさが増し、十川さんとランチをする機会もかなり減ってしまった。  最近は日常の彩り……というとなんだか恥ずかしいけれど、そういうことが十川さんと過ごすことくらいしかなかったのに、しばらくはそれもなくなってしまい、彼と関わる前の何もない平凡で忙しいだけの毎日の繰り返しだ。  隣の西山さんも「望月くんだけだとつまらないね」と、十川さんの存在の大きさを失礼な言葉でぶつけてくる。 「つまらないって……。今はみんな忙しいんですから仕方ないですよ」 「年末までのあと1ヶ月で落ち着くかな。このままだと忘年会もできないんじゃない? 年々忙しさが増していくんだけど……」 「飲み会のことを考える前に、やるべきことをやりましょう」 「望月くん、生意気ですな」 「何とでも言ってください」  淡々と仕事をこなす僕の横で、西山さんが椅子の背が大きく傾くほどに伸びをする。  「そうは言ってもモチベーションがさ」と愚痴を溢し、そんな西山さんを見て係長が笑いながら、「忘年会は意地でもするぞ!」と声をかけた。 「でも忘年会ってまだ先だよね……それに多人数でやれるか分からないよね……」   「いや、西山さん。忘年会やるって言ったら言ったで落ち込むのやめてくださいよ」  とりあえず疲れているなら甘い物をどうぞ、と西山さんのデスクにお菓子を置いた。  僕と同じ気持ちの人がぞろぞろと西山さんにお菓子を持って来て、いつのまにか山盛りになっていた。 「良かったですね」 「ありがたいよお……」  いくつか食べた西山さんが「集中!」と頬を叩き、それからきれいに気持ちを切り替えるとすごい勢いで仕事を再開した。  我慢できずに今晩にでもひとりで飲みにいくのかもしれない。  ……モチベーションか。  そもそも今は十川さんとのランチだけではなくて、宗治郎さんの誘いも全て断っているしなあ……。  宗治郎さんの誕生日に電話し、その後十川さんにフォローしてもらえたあの日に、これまでのことや自分自身について気付きがあった。  とはいえ、宗治郎さんへの想いを完全に断ち切れるはずはなく、それでも好意を整理をするために距離を置くという選択肢ではいけないと思うようになった。    宗治郎さんとの関係を壊さずに気持ちの整理ができるようにと、僕が納得できる人を彼に紹介したのに、結局宗治郎さんを避けて会わないようにするのは意味がない。  この先輩後輩としての良い関係続けていくためにそうしたのだから、それから逃げるのは違う。  逃げてしばらくはおさまるかもしれないけれど、解決には至らないだろうし、いつぶり返すのかも分からないから。  ふとそんなことを考えながら飲み物に手を伸ばしたとき、腕を西山さんに強めに掴まれた。  何だ!? と驚いて見ればキラキラした目でこちを見ている。   「ねえ、来週にいったんの区切りがあるじゃん? その締め切り日の夜、みんなで飲みに行かない?」 「……いや、僕は遠慮しておきます。てか集中してたんじゃないんですか」  さっきお菓子を食べていつもの仕事の早い西山さんに戻ったと思ったのに。 「今日のモチベは今日中にと思って。はあ、望月くんってやっぱりつまらない」 「はいはい、村田さんと係長と楽しく行ってください」  村田さんと係長の名前を出したら、ふたりがこちらを見て西山さんに手を振った。  まあ3人いれば良いかと西山さんも笑い、そんな3人を見てつくづく良い職場だなと思う。 「西山さん、いったんの区切りまで頑張りましょうね」 「はーい」  僕は来週の区切りがついたら、その日は十川さんを誘おうと思っている。  宗治郎さんの誘いを数回断ってしまったから、本来はそっちに時間を割くべきなのだろうけれど、宗治郎さんから逃げたい気持ちとかではなくて、どうしてか十川さんと過ごす時間がほしいと思ってしまった。  元々これまでのランチ先を探してくれるお礼に僕もどこかお店を紹介したいと思っていたけれど、それだけではなくて先日のことも含め、色々精神的な部分で助けられたことがあったからそのお返しをメインに。  まあ十川さんにはランチのお礼くらいしか伝えられないし、彼もそのつもりでしか受け取らないだろうけれど。  来週、彼の忙しさも少し落ち着いてくれたら良いな。  そうじゃないと、どんなに忙しくても僕の誘いに乗ってくれそうだから。 「……ふ、」  自分の誘いに乗ってくれるはずだと、誘う前から確信してしまっていることに笑みが溢れる。  自惚れ……ではないはずだ。 「何笑ってんの?」 「や、別に」 「ふうん。先輩を差し置いてさぞかし楽しい予定でもあるんでしょうね」  せっかく仕事モードに切り替わったのにまたか、と彼女を見れば画面を見て素早く文字を打ちながら話しかけてきていた。  器用さを発揮するところが違う気がする……。 「楽しいとか、そういうわけじゃ」 「はい、うそー」 「西山さん何かしつこいですよ」 「うるさい、疲れてるんだよ……」  一瞬手を止め僕のほうを見ると、わざとらしくため息をつく。 「ふふ。西山さん、年が明けたら飲みに行きましょうね」 「うう……、随分と先だねえ」 「それもモチベになりますよ」  今日終わらせるべき仕事を確認し、余計なことを考えないようにと僕も少し前の西山さんのように頬を叩いた。

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