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好意の在処2
待ちに待ったいったんの締め切り日の前日、十川さんに食事の提案をした。
本当は当日に軽く誘いたかったけれど、それだともしもお店がいっぱいだったときに、また彼に迷惑をかけてしまいそうだと思ったから。
タイミングが来たら誘おうと構えていたみたいで恥ずかしさはあったけれど、「そういえば明日でちょっと落ち着くんだよね」と、何となく誘ってみました感を演出しながら伝えた。
それが伝わったのかは分からないけれど、十川さんは柔らかい笑顔で「行きましょう!」と答えてくれた。
食事の当日は、西山さんに何も言われないようにと、係長たちとどこに飲みに行くのかを話している隙にこっそり出て、十川さんの部署へと向かった。
彼が終わったかどうか遠目に確認していると、清水さんに見つかり手を振られる。
会釈で返すとそのやりとりに気づいた十川さんが俺に手を振り、急いで身支度をして出てきた。
「お疲れ様です」
「十川さん、お疲れ様。なんだか急かしたみたいでごめんね」
「いや、今日を楽しみにしていたんで」
「でもあれだよ、僕も行ったことないお店だし、おいしいかどうかは分からないから」
「望月さんと一緒なら俺はどこでも良いですよ」
「……またそんなことを言う」
「事実ですもん」
十川さんみたいに職場近くのおしゃれでおいしいお店は探せなかったから、以前見つけていた所に連れて行くことにした。
最寄りの駅からはいくつか先にあるから、仕事帰りにわざわざ行けないと諦めていたけれど、こういう頑張ったときの特別な予定としては違和感なく誘えそうだと思ったから。
十川さんも仕事終わりで疲れているだろうに、電車の中でもずっと楽しみにしてくれていることが伝わる。
場所はどうか、お店は気に入ってくれるだろうかと不安だったけれど、彼にはそんなこと関係ないんだろうなと思った。
こういうときだけではなくて、もっと気軽に誘えば良かったのかもしれない。
だって、僕と食事できるなら何でも良いと言ってくれているみたいだ。
こんなに仲良くしてくれる存在が今まで宗治郎さんくらいしかいなかったから、僕も素直に嬉しい。
少し前までは友人なのか、ただの会社の人なのか、後輩なのか……と彼のとはっきりしない関係を悩ましくも思っていたけれど、もはや親友と呼んでも良いくらいに仲が深まったのでは? とさえ思ってしまう。
……これに関しては絶対に自惚れだから、彼には死んでも言えないけれど。
「あ、ここで降りないと」
「この駅って、通り過ぎることはあっても降りたことはないかも」
次の駅だよ、と事前に教える余裕すらもない僕の案内に、十川さんが微笑んだ。
「本当? 家からは反対のほうだもんね。疲れているのにごめんね」
「いや、良いんですよ。明日は休みですし、ゆっくり過ごしましょう」
人混みをかき分けながら降り、不慣れなせいでキョロキョロと出るべき改札を探す。
「西口のほうみたいですね」
「なんか調べさせてごめん。僕が誘ったのに」
「いや、楽しみすぎて俺が勝手に店のホームページを開いていただけなんで」
「そうだったの? でもありがとう」
人の流れに身を任せながらエスカレーターを昇り、改札まで辿り着く。
後ろから押してくる人混みに圧倒されながら改札の外へ出ると、それだけでどっと疲れてしまった。
「ここって意外と人多いんですね」
「そうみたいだね」
せっかく誘ったのにスマートに案内できないことと、駅から少しだけ距離のある店だったことを内心嘆き嘆きながら、位置情報を確認しようとマップと近くの建物を照らし合わせる。
「もしかして方向音痴ですか?」
「……別にそうじゃないけど、念のためだよ」
事前に確認したときは改札を出てからまっすぐだと思ったのに、改札から見た目的地の方向を合わせることに苦労してしまう。
「俺、分かりますよ」
改札が背中側だから……ともたもたしていると、十川さんが笑いながら僕のスマホを覗き込み、それから一瞬で「こっちですね」と指さした。
これがランチじゃなくて良かった。ランチで道に迷っていたら休憩時間が僕のせいですぐ終わってしまいそうだ。
「色々ごめん」
「良いんですって。あ、もうマップ閉じてもらって大丈夫ですよ。充電もったいないし」
「ありがとう」
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