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好意の在処4
仮に宗治郎さんと清水さんが良かったとしても、初対面の十川さんを考えると絶対に遠慮したいし、僕も今日は彼とふたりが良い。
そんな気持ちで断ろうとしたとき、十川さんが「俺は望月さんが構わないなら大丈夫です」とすぐに会話に割り込んだ。
「えっ、でもふたりで……」
「望月さんと大貫さん、久しぶりなんでしょ? またしばらく忙しいし、俺とは会社でも会えますし。……それに俺も色々気になるんで」
「……え、ああ……、じゃあ僕は清水さんが良いなら……。あとお店予約しているんで、お店が人数が増えても対応してくれるなら……で、良ければ……」
宗治郎さんは純粋に誘ってくれたとして、十川さんはどうして? と頭がいっぱいになり、歯切れの悪い答え方になってしまった。
元々僕と関わるようになる前の彼の様子から見ても、いくら清水さんと僕がいるからとはいえ、初対面の人と仲良く話をするなんて姿は想像できない。
ましてやこの人数だから、話さずにその場を乗り切ることも難しいだろうし、清水さんが来たら当たり前に彼に話題を振り、それに答えないといえない場面も多いだろうに。
「本当に良いの?」
「うん、良いよ。色んな望月さんも知りたいし、大貫さんのことも知りたいからね」
「どうして?」
「……どうしてだと思う?」
清水さんから連絡が来たのか、宗治郎さんがスマホを見ている隙に十川さんの耳元で尋ねると、また予想外の言葉が返ってきた。
色んな僕を知りたい? 宗治郎さんのことも?
……どうして?
耳元で話すために自分から彼に近づいたのに、そう言われて視線を合わされると、どうして良いか分からずすぐに離れた。
地面へと視線を移したけれど、まだ彼が僕を見つめているだろうことが何となく分かる。
ここで顔を上げたら、射抜かれるような視線にかたまってしまうかもしれない。
もしかして、十川さんと話すようになったばかりのあのときに、僕が気持ちと反対の行動をする理由を知りたいと言っていたそれを知るため?
気持ちを教えても良いと思える関係になりましょうよと、そう言っていたそれだけのために一緒に食事すると決めたの?
……そんなの、時が来たら自分から伝えるのに。
さすがにもう、十川さんに無関心でいたいわけでもない。積極的でないにしろ、今後も一緒にいるならいつか僕から話すことがあるかもしれないのに。
「僕に、直接聞くんじゃ……ダメなの?」
「望月さん、教えてくれるの?」
「まだ、あのときのことを知りたいってこと……?」
「まだっていうより、あんたのことを全部知りたいだけ」
「どうして……?」
「だからどうしてだと思う?」
弱みを握るため、揶揄うため、むしろそんな単純な理由のほうが良かったのかもしれない。何も分からない十川さんに、少しだけ不安な気持ちになった。
宗治郎さんと偶然出会ったこの状況への動揺はおさまり、十川さんのことで頭がいっぱいになる。
ふと顔を上げるとやはり彼と視線がぶつかり、吸い込まれそうだと思った。
「楓! 沙織も一緒で良いならそうしたいって。店の名前教えてくれる? 俺、電話するよ」
突然、清水さんと連絡を取り合えた宗治郎さんに声をかけられ、パチンと風船が弾けたように意識が戻された。
「あ、僕が聞くんで大丈夫ですよ」
予約変更できないと言われたい気持ちが少しチラつきながら店に電話をすると、コース料理を予約していたわけでもないからか、あっさり了承してもらえた。
電話をしている間に合流した清水さんも、社交辞令とかなしに僕たちと食事に行けることを喜んでいるようだった。
「今度はふたりで行きましょうね」
「……っ、」
宗治郎さんと清水さんが話している間に、十川さんが僕の耳元で囁く。
だったら今日、ふたりで良かったじゃん。僕は十川さんとふたりで行けることを、ずっと楽しみにしていたのに。
「それなら今日のふたりの時間を大切にすれば良かったのに」
どちらかというと巻き込まれたのは十川さんなのに、拗ねるような言葉が口から溢れた。
「ふたりで行きたかったけどね。望月さん、俺の我が儘に付き合わせてごめんね」
「……だからどうして」
そもそも別に彼の我が儘ではない。十川さんは一緒に食事に行きたいと言っただけで、僕たちが巻き込んでしまったと言うほうが正しい。
「どうしてって、もっと俺のこと気になれば良いのに。その程度じゃ教えないから」
十川さんが、ぽんっと僕の頭に手を置いた。
そのまま滑るように動かし、「寒いの? 耳、真っ赤ですよ」と囁き、寒さで冷たかったはずの僕の耳が一瞬で熱を帯びた。
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