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好意の在処6
「じゃあそろそろかな」
僕が戻ったタイミングでお開きにしようかとそんな雰囲気が出ており、慌てて財布を取り出すと宗治郎さんが支払いを終えてくれていた。
どうやら僕と十川さんがいない間に支払ってくれたらしい。
さすがにそれは、とお金を押し付けるように渡したけれど、「久しぶりに会えて嬉しかったから」と返されてしまった。
十川さんも気まずそうにし、清水さんに気にしないでと声をかけられている。
「楓、またご飯行こうよ」
「……はい、ありがとうございます。ご馳走様でした。すみません」
「いいのいいの」
宗治郎さんに会釈すると、十川さんも同じように頭を下げた。
「みんな駅だよね?」
「あ、はい、駅です」
店を出て駅のほうへとみんなで向かいながら、お互いの最寄駅について話をした。
改札の手前まで来たところで、宗治郎さんは違う方面なはずなのに清水さんと同じ方向に帰ろうとしており、それが何を意味しているのかに気づいてしまったとき勝手に足が止まった。
これからこの週末を一緒に過ごすんだ。
「……あ、」
そりゃあ、恋人なんだから当たり前だろう。もう自分には関係ないし、むしろ自分がそれを望んだんじゃないか。
食事も何とか乗り切ったし、途中では宗治郎さんへの葛藤よりも十川さんのことでいっぱいで忘れていた時間だってあった。
過去には戻れないし、戻ったとしてやれたことはなかったはず。
これで良いのに! 喜ぶ気持ちだって確かにあるのに……!
自分の意識とは別に、頭の中で勝手に色んな考えが浮かんではしつこくそこに漂っている。
「楓?」
「……あの、」
自分でも何にここまで混乱しているのかが分からないから、うまく取り繕うことも難しい。
僕の名前を呼んだ宗治郎さんに何も返せないでいると、十川さんが僕の手を掴んだ。
「俺たち、二次会に行くのでここで」
「あっ、そうだったの? 楓が止まっちゃったからびっくりした。ごめんね、じゃあ楽しんでね」
十川さんが手を掴んで、二次会に行くと誤魔化してくれたことで何とかその場を済ませた。
改札の向こうへと消えていくふたりに向かって、弱々しく手を振る。
二次会に行く予定なんてなかったのに言い訳させてしまったと申し訳なく思うと、十川さんは僕の手を引いたまま改札とは反対に歩き出した。
「えっ、」
「さすがにこの状況でお酒はまずいだろうからどこかカフェ入ろう。お酒じゃなきゃあんたも大丈夫でしょ。ほらあそこ、23時までやってるし」
気を遣ってくれた申し訳なさとでいっぱいになりながら、素直に従い店に入った。
煉瓦や木で落ち着く温かな店内に入ると、十川さんは空いている奥の席へと僕を座らせた。
それからすぐに、温かい飲み物を注文してくれる。
「……望月さん、しんどかった?」
「え?」
「最後かたまっている望月さんを見て、やっぱり俺はやらかしてしまったんだなって思った。だからあのまま並んで帰るのは違うかなって、勝手にあんなこと言って、こうして連れて来てしまいました」
すぐに持って来てもらえた飲み物を僕の前に差し出しながら、彼が小声でそう言った。
酔ったのかな、と思っていた十川さんはいなくなり、真剣な眼差しでこちらを見ている。
さっき顔が見えるように座りたいからふたりで食事が良いと、そんな会話をしたというのに、それにしてはあまりにも空気を重くしてしまっているなあ。
全部僕が悪いのだけれど……。
「十川さんは、何も……」
十川さんのことだから、今日の僕の姿を見てある程度のことは察したに違いない。
あの日、清水さんへ好意を抱いているわけではないことは十川さんも知っているし、今日実際に紹介相手の宗治郎さんを見た。
そもそも宗治郎さんの誕生日に電話をしたあの日も、清水さんから僕が残っていることを聞いて来てくれたんだ。
だったら直前まで僕と清水さんが話していたことは知っているはずだし、その場に宗治郎さんがいたことは電話越しに何となく察していたかもしれない。
そうでなくてもこれまでのことに今日を含めて考えたら、彼の中で色々分かるだろう。
それを誤魔化したところで彼をモヤモヤさせるだけだろうし、取り繕い続けることも違うように思う。
彼が知りたいと言ったのは、このことではなかったのかもしれないけれど、これまでの僕を見て支えてくれることもあった彼に、わざわざ嘘を言うのも違うよね……。
「今から言うこと、十川さんをびっくりさせるかも。でも多分、もう気づいているとも思う」
「……無理に話さなくて良いですよ。俺は望月さんを傷つけたいわけじゃなくて。本当にすみません」
「いや、僕が聞いてほしいと思ったから話すんだ。どう受け止めるかは十川さん次第で……」
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