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好意の在処9
「このこと、と言うよりも、望月さんのことが、って言うほうが正しいですけど。これも知りたかった。あの日の望月さんが、どうしてあんな表情であんなことを提案したのか」
「……あ」
これも知りたかった、そう彼に言われたことで、単純だけれどネガティブな気持ちや考えが少し萎んだ。
これも、か。
じゃあ僕たちはまだ終わらない。
……というか、何が始まっていたのかも分からないけれど。
そもそも僕は、十川さんとの関係の何に怯えているんだ?
「今回のことは、最近望月さんのことが色々分かってきたからこそ、欲が出てしまった部分もあるし、そのほうが大きいと思う。だからそれはごめんなさい」
「……いや、全然。十川さんに知ろうとしてもらえて、それはそれで嬉しいし。でも知った先に何があるのかとか、どこまで知りたいのか、知ったらどうなるのかとか、なんか……なんて言えば良いんだろう」
今さら酔いが回ってきたのかと、そう思わないとおかしいくらいに変なことを口走ってしまったように思う。
何か言い訳しようにも余計にみっともなくなりそうで、誤魔化しきれないまま黙るしかなくなった。
「望月さんのこと、知って良いならこれからも知りたいけれど、知った先に何があるのか、どうなるのかは分からないです」
「……うん」
「それは俺にも言えることで、望月さんが俺のことをもっと知ったとき、どう思うかなんて分からないですしね」
僕が十川さんのことをもっと知ったら? 彼のこと、どう思うのかな。
嫌いになることは、まずないだろうな。
こんなふうに思えるようになったことも、あのときの僕だったら想像できないことだろう。
そういう意味では彼の言う、知った先に何があるのか、どうなるのか分からないは正しい。
「今日踏み込ませてもらえて、俺は良かったですよ。望月さんのことを知っても、そこまで思われていた大貫さんが羨ましいとそればっかりだったし、知ったことで望月さんに対して何かが変わるわけでもないし」
羨ましい、か。
十川さんにとったら何気ない表現だったのかもしれない。
けれど、僕が宗治郎さんに勝手に抱いていたこの気持ちを肯定してもらえたような気がして少し嬉しかった。
「明日の望月さんが何を考え、何をしたのか。何をおいしいと思うのか、何に笑うのか。そういう些細なこともそうですけど、これまでのあんたがどんなふうに過ごしてきたのかについても、もっと知りたいと思いましたよ。もちろん俺のことも知ってほしいけも。それじゃあダメ?」
「ダメじゃない……。ありがとう」
ぬるくなったカップを包み込むようにして触れながらそう言うと、「そろそろ帰りましょうか」と十川さんが穏やかに笑った。
ふたりで冷めた残りのお茶を飲み干し、それから席を立った。
ここは絶対に僕が払おうと思ったけれど、財布を取り出す前に彼が電子決済で済ませてしまい、先輩として情けない気持ちになる。
そんな僕に気を遣ってか、「じゃあ今度のお店も望月さんが探してよ」とまた笑った。
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