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好意の在処10
店を出ると、冷たい風が頬を刺した。まだ本格的な冬ではないのにこれだけ寒いなら、来月以降どうしたら良いのだろうか。
肩を震わせ両手を擦るように合わせる僕を見て、十川さんは鞄からマフラーを出すと当たり前のように僕に巻いてくれた。
「今日だけ寒いらしいですよ」
「えっ、さすがに十川さんが使いなよ。せっかく用意していたのに申し訳ない」
返そうとマフラーを掴むと、その手ごと十川さんに包まれ、それからきれいに巻き直してくれた。
整える度に彼の手が僕の顔に触れ、「冷たいね」と微笑まれる。
ありがとうと小さくお礼を伝えると、満足そうに目を細めた十川さんが、僕の手をしっかりと握りそれから歩き出した。
金曜日の夜だからか、周囲は人で溢れていた。
けれど、繋いだ手が他の誰からも見えないくらいに十川さんと近づいていたから、他人の視線が気になることもなく、繋がれた手に集まっていく熱に全ての意識を持っていかれてしまう。
「望月さんってさ」
「は、い……」
僕が拒否しないのもあって、十川さんは手を繋ぐ行為を自然と続け、特に何も気にしていない様子で話し始めた。
自分と彼とのギャップに戸惑いながらも返事をすると、少しだけ握られた手に力が入ったように感じた。
「望月さんは、自分がほしいものをがむしゃらに追いかけてぶつかることはしないで、何歩も引いた先で、誰かの幸せの下でしか自分の幸せを考えられないんだなあって……。あ、さっきの話です」
「あ、……うん、」
彼のほうが身長も高く脚も長いのに、僕に歩幅を合わせながらゆっくり歩いてくれる。
もうそれなりに遅い時間ではあったけれど、彼との時間が終わってほしくないとそんなことを思い、僕は少しだけ歩幅を小さくした。
「そうじゃない望月さんも見たいなって気持ちになりました。いつか望月さんのどうしよもうない止められない気持ちを引き出してみたいですね」
引き出すが何を指しているのかは分からないけれど、さっきの話で言えば何歩も引いてしまうのではなく、がむしゃらに追いかけてぶつかりたくなる気持ち、というところだろうか。
それができれば理想なのかもしれないけれど、いきなりそこには辿り着けないと思う。
僕はマフラーの先を掴んだ。
「……それくらいの気持ちになれたら確かに良いのかもしれないけれど、引き出されてもうまくいくかは分からない。そうしたら十川さんが責任とってくれるの? ……僕は別に砕け散りたいわけじゃないし」
応援してくれるのはありがたいけれど、それには応えられない。
すぐには自分を変えられないよ。
「いや、俺は別に、望月さんの誰か知らない人への好意を勝手に引き出したいわけではないから、あんたと俺の想定していることが噛み合ってない気がするんですけど。……まあ引き出せるかも分からないけれど、もし俺が引き出したらそのまま委ねてくれますか?」
急に立ち止まった十川さんが、僕の顔を覗き込んだ。真剣な表情で、瞬きなく見つめられて思わず一歩下がった。
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