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好意の在処11

「え、どうして十川さんが引き出すの? どういうこと?」 「どういうこと? って文字通りですが……」  文字通りが分からないから、こうして聞き返しているのだけれど。  十川さんは今日、僕の「どうして?」「どういうこと?」に何一つ答えてくれていない気がする。  ……僕はこんなに話したのに。  下がった分だけ戻り、僕は彼の鼻を摘んだ。  うわっ、と言って顔を振り、僕の手から逃れた彼が、仕返しとでもいうように繋いだままの手を引く。  顔がぶつかりそうな距離まで近づいた。 「……十川さんって時々よく分からないよね」  目を逸らしてそう言うと、今度はさすがに覗き込まれることはなかった。 「これだけ付き合い長くなってきたのに、まだ分からないとかそんなこと言います?」 「ははっ、」  拗ねた顔をしてさっきよりも少しだけ早く歩き始めた彼に引っ張られるようにして歩くと、あっという間に駅に着いてしまった。  乗り換えまでは一緒だったけれど、それも一瞬で過ぎ去ったように感じた。  電車の中でも人混みに紛れ、手を離すことはなかった。  その意図を改めて考えることもなければ、やはり拒否することもなく、ただ溶けていくような感覚になぜだか不安になる。今を確かめるように力を込めた。 「じゃあ、また来週」  僕だけがそう思ったのだろうけれど、手を離すときは名残惜しかった。きっともう繋ぐことはないと思うから。  宗治郎さんと清水さんを目の前にした僕の気持ちに寄り添ってくれただけなのだろうし。 「また来週。今日はありがとう」  何度か手を振って、歩いていく十川さんを見送る。  その背中を見つめながら、「これだけ付き合い長くなってきたのに、まだ分からないとかそんなこと言います?」と言った彼の言葉を思い出した。  ……分からないよ。  だってまるで僕のことが好きで、僕の気持ちを引き出したい、みたいに聞こえてしまったから。  笑って誤魔化したけれど、内心は馬鹿みたいに動揺していた。さすがにそんなことはありえないのに。  ただの慰めの意味しか持たない手の温もりであって、何も特別な意味もない。  あの視線も、声色も表情も、仲良くなれて嬉しいと、その気持ちの証なのだろう。  宗治郎さんのことでまだ少し弱っているからかもしれないけれど、彼の厚意を好意と勘違いしてしまいそうで、そんな自分に悲しくもなった。  どうしたって対象が男性だから、こういうことにときめきを感じてしまう。  ……馬鹿だなあ。  ああでも、もし僕が十川さんのことを好きになってしまったら、次は彼の言うように頑張れるのかな。  がむしゃらにぶつかる、そんなことができるのだろうか。    次の恋愛は前向きにできたら良いと思っているのは確かだけれど、でも本当に十川さんのことを好きになってしまったら、自分の好意が僕と十川さんの関係においてすごく邪魔なものに思えて、結局は同じことの繰り返しになりそう。  まあ、さすがに紹介できる人もいなければ、たられば話だから何も分からないけれど。 「……難しいや」  ガタンと揺れる音を聞きながら、僕は少しの間目を瞑った。

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