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バレンタイン1
十川さんと初詣に行ったことが、ずいぶん昔に感じられるくらいに、あっという間に時間が過ぎていった。
2月中旬になり、相変わらず寒さが厳しい日々が続くから、最近は昨晩の残りを持ち寄ったり、コンビニで購入したお弁当を休憩室で食べることが増えている。
「にしても、すごい量だね」
「去年の5倍かもしれない」
いつものように休憩室で食事をしていたけれど、今日はバレンタインだったこともあり、机には十川さんへのチョコレートが溢れていた。
昨年までは愛想のない部分が大きかったし、何より新人だったこともあってか、仕事で絡むこともほとんどなかった。
それなのに、僕と話すようになったことをきっかけに、十川さんの愛嬌ある一面が広まり、密かに推している人も多いと聞く。
僕の部署でも最初のほうは何人かいたけれど、隣の西山さんが十川さんにキャーキャーしないタイプなのもあって、彼の職場の女子ウケ具合を忘れてしまっていた。
僕が知らないだけで、今でも女性に囲まれていることがあるのだろうか。
だとしたら完全に彼の新たな一面を引き出した僕のおかげでは?
机に積まれたチョコを見ると、“十川さんへ”とメッセージカード付きのものがあった。
明らかにみんなに配っているだろうものもあるけれど、これはピンクのラッピングだしリボンまで可愛い。手作り感が溢れているから間違いなく本命だろう。
こういうふうに判断するのは良くないだろうけれど、メッセージの文字からも今年度来たばかりの子たちか、僕らと変わらないくらいの若い子だろうなあと予想できる。
まあ、でも十川さんの部署の女性を全て把握できているわけでもなければ、その他の部署の女性も知らない人が多いし、彼がどこまで仕事で関わりがあるのかも知らない。
そもそも、仕事で関わりある人からだけもらうわけでもないのだろうし。
「望月さんは? 誰かにもらいましたか?」
「僕は同じ部署の人にもらったけれど、みんなと同じものだったよ。西山さんだって、十川さんと僕に同じチョコだったでしょ? どれもそんな感じ」
恋愛対象が女性ではない僕からすれば、このイベントは何個もらおうと喜ぶことも落ち込むこともないけれど。
「それで、俺にはないの?」
「え? 何が?」
「望月さんからのチョコ」
「僕から? どうしてまた……」
十川さんが少しだけ身を乗り出し、僕をじっと見つめる。
僕から十川さんにチョコがあることを想像する彼の意図が分からないから、気まずくなって視線を逸らした。
僕からもらうつもりだったとして、何の意味を込めたチョコを期待したのだろうか。
正直、日頃のお礼としてあげようか迷う気持ちもあったけれど、受け取る側の彼を困惑させるかもしれないと思い、チョコを購入しなかった。
それに、あげる側の僕も何の気持ちを込めたいのか、曖昧になってしまって部分もあったから。
「なんだ、ないのかあ」
「ほしかったの?」
「そりゃあ。だって俺は用意しましたし」
「ええ?」
どこに隠し持っていたのか、十川さんはきれいにラッピングされた小さな箱を差し出してきた。
「えっ、本当に?」
驚いている僕を見て笑いながら、十川さんがさり気なく席を移動し隣に座り直す。
近くなった距離に戸惑いながら、目の前に置かれていた箱に手を伸ばした。
「ここの、すごくおいしいチョコだ……」
「あ、知ってます? 最近有名ですよね」
「うん、嬉しい……」
ありがとう、とそう伝えようとして十川さんのほうを向いた瞬間、彼の顔がキスができそうな距離まで近くなっていた。
「ごめん……っ、あ……!」
「あっ、ぶな……」
彼が近づいたのか、僕が近づきすぎたのか、咄嗟のことで分からなかったから慌てて身体を逸らすと、姿勢を維持できなくなり椅子ごと後ろに倒れそうになる。
それを、僕の背中に腕を回して支えてくれた十川さんに助けられ、せっかく離れようと思ったのにさっきよりもさらに距離が縮まった。
ぶつかったままの視線を逸らすこともできない。吸い込まれるように捕まり、呼吸の仕方も分からなくなった。
バクバクとうるさい心臓の音が身体中を巡り、指先まで伝わるようだ。
さらに顔が近づき、本当にキスされてしまうんじゃあないかってそんな考えで頭がいっぱいになって、僕は思わず目を閉じた。
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