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バレンタイン2

「望月さん」  彼の吐息を近くに感じ、さらに目も口もぎゅうっと閉じた。歯まで食いしばり、力が入る。    それなのに数秒経っても当たり前に何も起こらず、十川さんの温もりを頭に感じた。  ゆっくりと目を開くと、眉を垂らした十川さんがこちらを見ている。 「びっくりさせちゃった? ごめんね」 「……え?」  大きな手で僕の頭を撫でながら、十川さんは困ったように笑った。  その瞬間、もしかしたらキスをされるのではないかと、馬鹿みたいな期待を抱いてしまった自分があまりにも恥ずかしくなって、目に涙が滲んだ。  目を閉じた僕を、彼はどんな気持ちで見ていた?  それで僕は、どうして目を閉じてしまったんだろう。 「チョコ、開けてみてくださいよ」 「……うん」    変わらず彼の距離は近く、肩が触れ合っていた。  さっきの僕の反応を見て、ネガティブに受け取ったわけではないことは分かる。  とはいえ、どういうつもりだったのか、僕が目を瞑っている間に何を考えていたのか、そればかりが気になってしまう。 「望月さんって、丁寧に開けるんだね」 「だ、だって、こんなに素敵なチョコだし……」  まだ少し震える手で包装紙を取り、リボンを解いていく。  蓋を開けると、綺麗な色のチョコレートが5つ並んでいた。   「可愛いでしょ? あんたみたいだって思って買ったの」 「僕はこんなに明るくないと思うけど……」 「明るいキャラだからというよりは、俺にとったらそういう存在ってこと」 「……ふうん」  さっきから僕がおかしいのかもしれない。  キスをされるかもしれないと期待をしたり、それを拒否する気持ちが出てこなかっただけではなく、彼の言葉が告白のように聞こえてしまう。  以前も似たようなことがあった。  そのときは、僕が宗治郎さんのことで弱っていたからそう感じるのかもしれないと思っていたけれど、今はそんな理由は通用しない。    十川さんが、こんなにおいしそうなチョコをくれたから?  わざわざ僕のために選んでくれたから?  その意図がはっきり分からないから、勝手に意味づけしようとしてしまうの?  でも僕だって彼に日頃のお礼としてあげるのもアリかもしれないと思ったわけだから、彼にとっても同じかもしれない。  それ以外の理由は、僕が勝手に思っているだけなのだろう。  ……じゃあ、それはどうして? 「望月さん?」  箱を持ったままで、ぼーっと考えていると、十川さんが心配そうに僕の名前を呼んだ。  何度か瞬きをし、それから彼のほうを向く。けれど今、しっかりと視線を合わせてはいけない気持ちになり、彼から目線を下げた。 「食べてみていい?」 「いいですよ」  あまり考えすぎるのも良くないと思い、チョコへと気持ちを逸らした。  彼の前で赤色のチョコを一粒手に取るとそのまま口に含む。  周りのチョコはしっかりと硬さがあるのに、中からとろけるようなソースが溢れてきた。  ほどよく酸味があり、フレッシュな香りで口の中がいっぱいになる。フランボワーズだろうか。 「おいしい?」 「すごくおいしい……」  ついさっきまでぐるぐる考えていたのに、あまりのおいしさに目を見開いた。そんな僕を見て十川さんが笑う。 「おいしいの伝わってくる。良かったです」  そう言いながら、彼ももらったチョコを開け始めた。  一番目立っていた本命チョコと思われるものから手に取っていて、人前なのに抵抗がないのかと驚く。  僕だったら本命チョコはひとりのときに確認するけれど……。  添えられていたメッセージカードも当たり前のように開き、さらっと読んで閉じるとチョコを口に放り込んだ。 「メッセージ、何で書いてあったの?」  僕が、見て良いかどうかの許可を取る暇もなく、彼がメッセージカードを差し出した。  見ると可愛らしい字で「いつも気にかけてくれてありがとうございます」の文章が書かれていて、最後にはハートの絵文字まで付いていた。  好きです、のようなはっきりと気持ちが分かる言葉はなかったけれど、手作りのチョコ、ラッピング、メッセージカードを見れば告白しているようなものだろう。 「園田(そのだ)さん?」 「そうみたいですね」 「みたいですね、って」  メッセージの最後には名前もしっかり書かれていたけれど、聞いたことがない名前だ。 「俺も最近関わるようになったんですけど。って言っても、ほんの少しなんですよね。気にかけた覚えもないし、そんなメッセージもらっても、俺がいつ? って感想しかないですよ」   「そ、そうなんだ……」  気にかけている意識が本人にないって、これは絶対に無自覚で好きにさせているやつじゃん……。  

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