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週末のデート1

 バレンタインから2週間後、十川さんとのパフェの約束が具体的になることもなければ、昼休憩を一緒に過ごすこともできず、慌ただしい毎日が過ぎて行った。  昨日、「明日は外勤で遅くなるから食事に行けない」と彼から連絡をもらっているから、今日の仕事終わりにいつもの定食屋に行くことはできない。  今週は仕事でも関わりがなかったから、このまま会わずに週末を迎えるのは何となく寂しい気持ちになる。  だから、とそれが理由になるわけでもないのに、何の用もない状態で、十川さんの部署へと来てしまった。  彼がいるか確認する前に、どんなふうに話しかければ不自然ではないのかを考えていると、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。  甘ったるい女性の声で、誰かも確かめていないのに、園田さんだと何となく感じた。  少しだけ見える位置に移動し、誰と話しているのかを見ると、園田さんの嬉しそうな顔が見えた。  相手の男性は、僕に背を向ける形で彼女の正面に立っていたけれど、後ろ姿から十川さんだとすぐに分かった。  ふたりの会話に割って入ることもできないこの状況で、元々彼に用事があったわけでもない僕が、ここに居続ける意味はない。  それなのに、かたまったまま動けなかった。  いくら僕と話すようになったことを機に、周囲の人との会話が増えたからと言って、それでも積極的に誰かと笑い話をするような人ではないのに。  僕の知っている彼とは正反対の楽しそうな雰囲気が伝わってきて、それが心をざわつかせた。  バレンタインのチョコに添えられていたメッセージを見て、園田さんを気にかけた覚えはないと言っていたのに、この状況を見る限りそれは嘘だと言いたくなってしまう。  十川さんにその気がなくても、彼女が彼も自分のことを好いてくれていそうだと、勘違いさせてもおかしくないように思える。  あはは、と高い声を出した園田さんが、十川さんの腕に触れた。  咄嗟に振り払うこともなく、十川さんも対応し続けている。 「何だよそれ……」  動揺から動けずにいたけれど、今はイライラのほうが大きくなり、僕はもう少しはっきりと声が聞こえる距離まで近づいた。  幸い出入りする人もいなければ、清水さんもいないから、僕に気づいた誰かに構われることもない。  それにもまた、ムカついてしまう。  いつもは僕が来たら、十川さんはすぐに気づいてくれるのに。  それもできないくらいに、彼女との会話に夢中になっているってことなんだろう。  しばらく呼吸をすることも忘れ、会話に耳を澄ませた。 聞こえてきたのは、カフェについての話だった。  季節の果物をたっぷり使ったパフェやケーキが有名なお店があるらしい。  続けて馴染みのない単語が聞こえ、それが店名だと分かった。  持っていたスマホですぐに検索すると、写真映えするきれいなパフェが並んでいた。  盗み聞きをして、僕は何をしているのかと、時々冷静になる瞬間もあったけれど、会話の行末が気になって離れることができない。  園田さんが十川さんを好きで、狙っている……という表現が正しいのかは分からないけれど、そんな状況の中で、わざわざ十川さんのほうから彼女にこの話を持ちかける可能性は低いと思う。  そうなると園田さんから十川さんに話題を振っただろうから、それを拒否することなく彼が聞いている理由を考えながら、雰囲気の良い店の外観や特別な日に食べるような見た目のパフェやらを見ていると、嫌な予感がしてきた。 「今度行きませんか?」  ……ほら、やっぱり。  園田さんは、変わらず十川さんの腕に触れたまま、彼を誘った。  すぐ近くで見ているわけではないから実際は分からないけれど、きっと上目遣いで、目にたくさん光を集めてキラキラさせているのだろう。  自分が腹黒い人間に思えるくらい、彼女へのネガティブな感情が込み上げてくる。 「ははっ、時間が合えば」  十川さんは、社交辞令とも取れるような返事をすると、園田さんから一歩分ほど離れた。  それでも、はっきりと断ることもなければ、他のメンバーを誘いましょうと誤魔化すわけでもなく、期待させてもおかしくない内容だったことに傷ついた。 「じゃあ、日程合わせるために連絡先交換しませんか?」  案の定、その期待に乗っかった園田さんが、お決まりの台詞を言う。  時間が合えばと伝えれば、次にこの台詞が返ってくることは、彼も予想できたはずだ。  それなのにはっきり断らないなんて、彼女のアプローチを受け入れたも同然に思えてしまう。 「……っ」  僕はそれ以上この場にいたくなくて、結局声をかけずに自分のデスクへと戻った。  十川さんは僕が来ていたことに気づいていなかったから、忙しい中で外勤前にわざわざ僕のところに寄ることはしないだろう。 「望月くん、どうしたの? 元気ないじゃん」  隣の席の西山さんが、心配そうに僕を見る。 「そんなに元気なさそうに見えますか?」 「うん、すごくね。珍しいから気になっちゃった。仕事のこと? 手伝う?」 「ありがとうございます。大丈夫です。ちょっと疲れただけなので」  甘いものでも食べなよと、西山さんがお菓子をくれた。  パッケージには、苺パフェ味と書かれている。 「パフェ……」 「そう、パフェなの。パフェ味って何なん? って感じだよね」  とにかく苺味の何かだよと、西山さんが僕の背中を叩いた。  園田さんの笑顔がこびりついて離れない。  今週末にでも、ふたりで休日の予定を合わせて行くのだろうか。  もらったお菓子を口に含んでみたけれど、何の味も感じなかった。

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