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週末のデート5
水族館に着くと、受付から人が並んでいた。土曜日だから混むことは覚悟していたけれど、やっぱり多いな。
「人混み大丈夫です?」
「うん、大丈夫」
「望月さん、はぐれないようにしてね」
「子どもじゃないんだし」
チケットを購入するときに、繋がれていた手は離れてしまったけれど、そんなことを心配するのならまた繋いでくれたら良いのに。
そう思いながら温もりの消えた手を見つめた。
……まあそもそも、人がたくさんいる中で、そんなに繋いでいられないんだけどね。
ゲートを通過して中に入ると、すぐに水槽があり、たくさんの魚が泳いでいた。
水族館に来るのはいつ振りだろうか?
記憶も曖昧だし、リニューアルしたせいもあって、懐かしさはあまり感じない。
「望月さんって、水槽をじっくり見たい派? それともショーが良い?」
「選んで良いなら、ショーのほうが……」
「オッケーです。じゃあ午前中のイルカのショーから見ますか?」
「うん、ありがとう」
館内地図を見ながら、瞬時にどこに何があるのかを把握した十川さんが、スムーズに案内してくれた。
「水がかかるところはオレンジの席なんだ」
「まだ寒いよね、ギリギリを攻めようか?」
オレンジの席のひとつ後ろに座った。今はまだ自由に泳いでいるイルカを見ながら、少しだけ彼のほうに寄った。
「寒くない? 大丈夫です?」
「……うん」
近づいたのがバレたようだったけれど、ネガティブな反応は何もなく、ただ寒さを心配されただけだった。
これなら、寒いと答えてもっと近寄っても良かったかもしれない。
「望月さん、始まるみたい」
「うわあ……!」
久しぶりのイルカのショーに、一気にテンションが上がる。
トレーナーとイルカの息がぴったりで、何よりイルカが楽しそうに見えた。
スマホで動画を撮ろうと思っていたのにそれも忘れ、全てから目が離せない。
十川さんの反応をを一度も気にすることなく、とにかくイルカだけを見続けた。
全てが終わり、人がぞろぞろと出ていく中、もう少し減ってから移動しようと席に座ったままでいると、イルカがプールの淵に乗り、尾びれを高く上げた。
「えっ、サービス!?」
トレーナーは片付けをしていて、誰かに指示をされたわけでもないのに。
たまたま近くにいた人がカメラを向けると、イルカはとても嬉しそうに見えた。
人が好きなのかな。
僕たちと同じ考えで移動せずに座ったままだった人たちもざわつき、みんなプールのほうへ集まって行った。
「僕も、ちょっと写真!」
十川さんを置いて、プールのほうへ行くと、人混みに紛れて写真を撮った。
少しして「撮れた?」と、後ろから十川さんに覗き込まれる。
「角度は微妙だけど、撮れた……」
「良かったね。俺は一生懸命にイルカを撮る望月さんを撮りましたよ」
「えっ!」
スマホの画面を見せられると、背伸びをしてカメラを高い位置から向けている僕が写っていた。
「何でこんな写真」
「俺としてはイルカよりこっちが面白かったんで」
「ひどい……」
「ははっ、拗ねないで。望月さん、いったんランチ行きましょう。もう少ししたら混みそうだから」
「……うん」
イルカはプールに戻ってしまったけれど、また何か見せてくれるのではないかと期待した人たちが、プールを囲んで立っている。
急に後ろに下がってくる人たちを気にしてか、十川さんが人混み側に立って僕を誘導してくれた。
水族館らしいメニューが並ぶ中、ただのハンバーガーを選ぶと、「このイルカのカレーじゃなくて良いの?」と十川さんに笑われた。
ライスがイルカの形になっていて、カレーで海を表現しているよう。
「イルカは可愛いけど、カレーの気分じゃないから」
「そうなんだ。じゃあ、ハンバーガーの気分なの?」
「うん、実は昨日から決めてた」
「えっ、昨日からハンバーガーの口だったんだ?」
楽しみでカフェメニューまで決めていたなんて恥ずかしいけれど、言ってしまったものは仕方がない。
すぐに食券の購入画面へと視線を戻した。
「じゃあ俺も、望月さんと同じのにしようっと」
「真似しないでよ」
「いいじゃないですか、別に」
メニューを決めるだけのこのやりとりだけで楽しくて、視線は逸らしたままなのに口角が上がってしまう。
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