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区切り5
心境の変化……。それはもちろんあなたです、と言えるわけもないから、どのように答えるべきかしばらく考え込んだ。
でも、全く十川さんに触れないのも違うだろうし難しい。気持ちの面だけでも正直に伝えようかな。
電車の揺れが大きくなる。
僕の声が聞こえにくいのか、十川さんが頬を寄せてきた。
大好きな人の、整った顔がすぐそばにあるせいで、急に酔いが回ってきたかもしれない。
慌てて手を頬に当てたけれど、その手も火照っていて、ちっとも意味がなかった。
「宗治郎さんへの好意を整理できたことと、今は今で充実しているからかな」
彼の耳元に近づき、そう返事をした。
「充実? 俺がいるから?」
そうだよ、以外に答えようのない質問を十川さんに投げかけられ、また頬の熱が上がったのを感じた。
ただ、そうだよと答えるにしても、含まれる意味が間違ってしまうと良くない。
恋愛的な意味でのそうだよ、なのか、友人として過ごせることが楽しいという意味でのそうだよ、なのか。
まあ、十川さんは後者を想定はしていなさそうだけれど。
「望月さん」
「えっ、」
ドアが開き、人がたくさん乗り込んで来たタイミングで、十川さんが僕の背中に手を回した。
完全に向き合った状態で、抱きしめられていることに気づく。
「えっ……」
「ねえ、俺がいるからだよね?」
耳に彼の吐息がかかった。
首筋に彼の鼻先があたり、僕をますます答えにくくする。
これじゃあ、友人としての意味でも返事ができないじゃないか。
「あ、あのさ! これからは、自分が誰かに向ける愛情を、えっと、なんて言えば良いのか分からないんだけど、引き出してぶつけることはしなくても、自分が納得するまで、納得できるやり方で温めておこうって思えたんだよね!」
「え?」
咄嗟に口から出た言葉は、自分でも言うつもりのない内容だった。
え? と返され、僕のターンがまた来てしまい、次の言葉を考える。
「十川さんからしたら、結局引き出せてないじゃんって思われるかもしれないけれど、それだけでも僕の中では成長したというか」
関係があるようでないような、言い訳じみた言葉がたくさん出てきた。言い終えた後で振り返ってみても、正直何を答えたのか全て思い出せない。
とんでもないことを言ってしまったかもしれない。
こんなことなら、どんな意味かはっきり伝わるわけでもないのだから、「十川さんのおかげだよ」とだけ返せば良かった。
「……てっきり俺との時間が楽しいから、とでも言ってくれるのかと期待したのに。違うんだ? 次の好きな人の話なんかしてさ」
「次の好きな人……?」
僕、次の好きな人の話なんかした? 好きな相手に対して?
あああ、ほんの少し前の自分の言葉が何も思い出せない。
「そうでしょ? そんな内容だったじゃないですか」
「違う……、いや、違わないんだけど……」
違うと言いたいけれど、本人を前にして違うとは言いたくないし、でも今気持ちを伝えたいわけでもないのに、とどうしたら良いのか分からなくなる。
もう顔を上げられない。どんな顔で十川さんを見たら良いの。
「へえ、そんな人いたんですね」
十川さんも、いつもより声が低い気がする。……怒っているのか?
「いたとか、そういうんじゃなくて、えっと……」
何を言っても余計な言い訳にしかならず、数分前からやり直したい気持ちでいっぱいになる。
次は〜、とアナウンスが入り、十川さんが降りる駅だと気づいた。
このまま解散したくないんだけど……!
「そうですか。誰? なんて聞かないですけどね。どうせ教えてくれないだろうし。聞きたくもないし」
「……十川さん」
何も言えないまま、十川さんの家の最寄駅に着いてしまった。
ドアが開き、一気に人が降りて行く。
「じゃあ俺、ここで降りるんで。また来週。お疲れ様でした」
「十川さんっ!」
手を伸ばしたけれど、降車する人に阻まれ、そのままドアが閉まった。
「なんで……、どうしよう」
宗治郎さんたちと良い感じで過ごして、そのまま終わるはずだったのに。どうしてこんなことになった?
僕が悪いの? 変に考えすぎて、はっきり答えられなかったから?
頭を抱えるだけで、何もできない自分に悲しくなる。
追いかけることも、帰ってから電話でも何でもして気持ちを伝えることも。
さっきまでの十川さんの温もりは消え、血の気が引いていくような感覚だけが残った。
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