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区切り6

 結局、帰宅してから十川さんに連絡できないまま、月曜日を迎えた。  何事もなかったように休憩室に行ったとして、彼はそこにいないだろうと思ったから、直接迎えに行くことにした。    死ぬほど吐きそうだけれど、仕方ない。  ただ、迎えに行ったタイミングで告白したいわけではないから、十川さんの反応によってはもう、しばらく彼と楽しく過ごすことは厳しいかもしれない。  彼の部署が近づくに連れ、足取りが重くなった。 「どうしてもダメですかあ?」  完全に足が止まってしまったとき、すぐそこで聞き覚えのある声が聞こえた。  たったの一言だったけれど、園田さんのものだと確信する。  そしてそこに十川さんがいるはずだ。  下ばかり見て歩いていたから気づかなかったと、声が聞こえたほうに向かって歩いた。  廊下の隅に、十川さんの背中が見える。  横にいたのは、やはり園田さんだった。相変わらず距離が近い。 「十川さん!」  さっきまで足取りが重かったことが嘘かのように、僕は咄嗟に彼の名前を呼んだ。  自分でも驚くほど大きな声が出る。  十川さんが僕のほうを振り返り、隣の園田さんは僕を睨みつけ、それから走り去って行った。 「今日は声かけてくれたんですね」  彼の名を呼んだ場所から一歩も動かずにいると、十川さんのほうから寄ってきてくれた。  十川さんは、先週のよく分からない彼ではなくなって、いつもの十川さんに見えた。 「十川さん」 「望月さん、休憩室行く?」 「……うん」  それだけのやりとりで安堵し、泣きそうなくらい嬉しい気持ちが込み上げる。  どうしてか分からないけれど、あのときの僕の受け答えが悪かったせいで、絶対に嫌われてしまったと思っていた。 「……え? 望月さん?」  気がつけば涙がぽろぽろと溢れ、目の前の十川さんが慌てて僕の涙を拭った。  それから僕の手首を掴み、すぐそばのトイレへと連れて行く。 「どうしたの」 「だって、先週……」  溢れ続ける涙を、彼が親指の腹で丁寧に拭い続ける。僕はその手をやんわりと断り、それから自分のシャツの袖でゴシゴシと目を擦った。 「怒ってるかと思って。僕、正直言ってもう、あのとき何言ったか覚えてないから、何が悪かったかも分からなくて」 「……いや、あれは俺が悪いんで。すみません。拗ねたし、焦りました」  誰が来るかも分からないのに、十川さんは僕のことを抱きしめた。  彼の行動も、言われた言葉も理解できずに固まってしまう。 「拗ね……? え……?」 「……俺はただ、あんたに俺との時間が楽しいからって答えてほしかっただけ。それなのに望月さんはそんなこと言わないし、なんか勝手に恋バナ始めるし」 「えっ」  恋バナをしたつもりはなかったと、あまり覚えてもいないくせに言い訳すると、「もういいです、俺が悪いだけです」と、さらに強く抱きしめられた。 「……十川さんといると楽しいよ。日々が充実してるのは十川さんがいるからだよ」 「俺が拗ねたからそう言ってくれるの?」 「違うよ、本当だよ!」  どうして拗ねているのか、正直何も分からないけれど、心の奥で静かに期待が膨らんだ。  それが僕への恋愛感情じゃなくても、彼にとって僕が大きな存在なのは確かなようだ。   「……好きな人は? 俺に秘密、作るの?」 「まだ、言えない。いつか言う……」 「じゃあ、それまでは俺と過ごしてくれる?」  十川さんの胸元を押し、彼から少し離れた。これだけは絶対に、目を見て離さないといけないと思ったから。 「それまでっていうか、ずっと……過ごしたいです」  これ以上のことは、今はまだ言えないけれど、僕は十川さんがそうしたいと思ってくれる限りは、ずっとふたりで過ごしたいよ。  伝われ、と念じながら見つめると、十川さんが眉を垂らした。 「ごめん。俺だってはっきりしないのに、我が儘ばかり言ってる」  十川さんはそう言うと、僕の手を引いてトイレを出た。 「お弁当、取りに行って良い? それから望月さんの部署に行って、望月さんのも取りに行こう。休憩室で早くふたりになりたい」   「……うん」  さすがに手を繋いだまま廊下を歩けないから、トイレの前で離して並んで歩いた。  十川さんがお弁当を取りに行く間、入り口の外で待っていると、清水さんが僕に気づき、手を振ってくれた。  軽く頭を下げたところで十川さんが戻って来て、それからまた並んで歩く。  僕の部署に来たら、西山さんにまた揶揄われると思ったけれど、十川さんと離れたくなかったから、先に休憩室に行くように言えなかった。  少し緊張しながら席へ戻ると、西山さんはいなかった。休憩時間だから、外にでも出たのだろうか。  僕は急いでお弁当を取ると、十川さんの元へ走った。  休憩室に入ると、今日もやはり誰もいなかった。すごく綺麗というわけではないものの、掃除は業者がしてくれているし、使いやすいと思うのに。いつ来ても誰もいない。    でも特に今日みたいな日は誰にも来てほしくないし、これからも誰も使いませんようにと願った。  広く使えるのに、いつものように隅の席へ行き、ふたりで並んで座った。

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