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区切り7

「ところで、園田さんは何の用事があったの? つい声をかけてしまったけど」  お弁当を広げながらそう聞くと、十川さんはさらりと「告白された」と答えた。 「え!」    他に誰もいない休憩室に、僕の声が響く。  持っていたお弁当の蓋を落としそうになり、咄嗟に机に叩きつけるようにして押さえた。    そんな僕の様子を見て、十川さんが笑う。 「分かっていて、割って入ったのかと思ってましたけど」 「さすがに分かっていたら邪魔しなかったよ」  少しだけ手が汚れてしまった僕に、十川さんがティッシュをくれた。  お礼を言ってそれを受け取り、手の汚れを拭き取る。 「……それで、十川さんは何て答えたの?」  園田さんが走り去って行ったあの様子を見ても、彼が受け入れたとは思わなかったけれど、それでもどんなやりとりがあったのかは気になってしまう。 「何て答えたと思う?」 「え……?」  てっきり断りましたよと、あっさり教えてくれると思ったのに。  そうせずにわざわざ聞いてくるってことは、僕が思っていたのとは違う返事をしたってことなの? 「……望月さんも俺の気持ち、少しでも分かればいいんだ」 「ええ……?」  僕が追加で質問する前に、十川さんはそう言ってコンビニのおにぎりを取り出した。  おにぎりの袋を開けながら、「もちろん、断りましたよ。嬉しいですか?」と、僕の目を見ずに言う。 「嬉しいって、どういう意味で……?」  元々喧嘩をしていたわけではないけれど、ここに来る前に仲直りできたと思っていたのは僕だけだった?  まだ様子がいつもと違う十川さんに、不安が覗く。 「十川さん」  名前を呼び顔を覗き込むと、彼は唇を突き出してあからさまに拗ねた顔をしていた。    さっきも拗ねただの焦っただの言っていたけれど、彼の拗ねモードはどこにスイッチが入るんだ?  あと、何に対して? どういうこと? 「もし俺が園田さんと付き合ったら、今みたいにあんたと出かけたりできなくなるんですよ」  数分ぶりに視線が合う。十川さんは、左の口角だけを上げ、口をキュッと結んでいる。  思わず左側の頬をつつくと、彼が僕の指に頬を擦り寄せた。 「望月さんだってそうだよ。好きな人とどうにかなれば、俺と過ごすことだってできないんですからね」 「あ……」  おそらく、お互いに恋人ができれば、今のようには過ごせなくなると、そう言いたいのだろう。  だから、僕が誰かと付き合うことになれば、十川さんに構う暇がなくなると、きっとそういう意味。  でも僕は、別の意味で考えてしまった。  僕の好きな人は十川さんだから、恋人ができるとしたら彼しかいない。  それに、僕が恋人を作るかどうかに関係なく、僕の気持ちを伝えたら、そもそも今のこの関係が終わってしまうことだって可能性としてはあるのだから。  僕としては、お互いに構う時間がなくなるというよりも、気持ちを伝えたことで関係が終わってしまうほうが、どうしてもイメージしやすい。  なんだか想像して、悲しくなった。  「我が儘ですけど、まだ誰にも告白しないでほしいし、うまくいかないでほしいです」  そんな僕に、十川さんは言葉を続けた。   「別に告白もしないし、うまくいくわけないし……」  勝手に悪い方向に考えてしまい、自分に告白しないでと、そう言われているような気になった。  十川さんはまさか自分だとは思っていないだろうから、遠回しに否定してきたわけではないだろうに。  さっきトイレで話したときは、お互いにずっと過ごせたら良いね、という雰囲気だったし、きっと悪い意味ではないと、何度も何度も言い聞かせる。  十川さんもそうだろうし、僕もそうだけれど、それ以上の会話が進まず、しばらくの間無言でお弁当を口に運んだ。 「……そう言えば、園田さんに告白されたとき、付き合っている彼女がいるからと断ったので、もしそういう噂が広がっても本気にしないでくださいね」  このまま最後まで沈黙しているのかと思っていたら、十川さんが急に口を開いた。  その内容が僕にとっては驚きで、「えっ」と声が漏れてしまう。 「大丈夫なの……? そんな嘘ついて」 「そうでも言わないと、諦めてくれない雰囲気だったし。何となく遠距離設定にしました」  淡々とした様子で十川さんはお弁当を食べ続けている。  どう反応するのが正解は分からない。  でも、嘘をついて困るのは十川さんでは? と心配にもなる。 「だとしてもさ……」 「まあ何があっても俺は園田さんとどうこうなれるわけでも、なりたいわけでもないんでね。俺は望月さんと過ごすので忙しいんで。あの人が入る隙なんてないですよ」 「えっ……」  さっきから僕を揺さぶるようなことばかり言う。  普段も十川さんの意図がはっきりしないことが多いけれど、今日は特にそう感じられる。 「……だからあんたも、俺以外のこと考えないで」 「なに……それ……」  ただの先輩後輩、友人、そんな関係性では言わないような台詞に、持っていた箸を落としてしまった。  ぼーっとしていると、落ちた箸を十川さんが拾ってくれ、それから予備があるからと割り箸を僕に渡した。  真意が分からないから、十川さんのその言葉をうまく飲み込めない。  考えるよりも聞いたほうが早いだろうけれど、何て聞けば良いのかも分からないし、違ったときが怖いしで、結局何も言えなかった。 「じゃあ俺、ちょっとやり残した仕事があるので先に行きますね」 「……分かった」  本当は仕事なんてなくて、少し気まずくなったのかもしれない。僕と一緒にいたくなかったのかも。  そんな考えがすぐに浮かんだけれど、十川さんが僕の頬を摘み、それから優しく指先で撫でるものだから、また頭の中が混乱する。 「今日いっぱい困らせてごめんね。また夜連絡します」 「……うん。仕事頑張ってね」  十川さんが出て行くと、お弁当を食べる気がしなくなり、僕はそっと蓋をした。

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