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温めたい気持ち3
「ほら、早く」
「うう……」
恥ずかしさが大半を占めていたけれど、少しの期待も確かにあり、僕はゆっくりと彼の口へ餃子を運んだ。
咥えたことを確認して箸を餃子から離すと、僕が2回に分けて食べたそれを、十川さんは一気に食べてしまった。
「ん、これおいしいですね」
口についた餃子の汁をぺろりと舐めながら、十川さんが笑う。
何も狙っていないだろうに、その自然な感じがあまりにかっこよくて、思わず見惚れてしまった。
「ん? どうしたの?」
「……いや、おいしそうに食べるなあと」
「何それ。望月さんもおいしそうに食べてましたよ」
残りの1個は箸で半分にし、分け合って食べた。さすがにもう一度食べさせてほしいと言われることはなかったけれど、僕はまだドキドキしたままだった。
中華街デートは始まったばかりなのに、今日一日何事もなく耐えられるだろうか。
誕生日のお祝いにと連れ出してくれたり、こんなデートコースを僕と回ってくれるなんて。十川さんと付き合ったらこんな感じで過ごしていくのかな。
でも、好意を伝えていない今でもこうして出かけられているのだから、付き合ったとしても今と変わらないのでは?
充分恋人のように過ごしているような気がする。こんなに贅沢なことがあって良いのだろうか。
「はあ……、お腹いっぱいになりましたね」
「もう夜の分まで食べた気がする……」
数時間の間、気になったお店で片っ端から購入し、とにかく食べ続けたせいで動けないくらいにお腹いっぱいになってしまった。
膨らんだお腹をさすっていると、その姿を十川さんに写真に撮られる。
「ねえ、今日撮りすぎじゃない?」
「そうですか? せっかくだから写真に残さないとと思って」
撮った写真を確認している十川さんの横に立ち、その画面を覗き込むと、画面の上から下まで全て今日の写真で、ほとんどが僕だった。
スクロールして確認したらもっとありそうだ。嬉しいような気まずいような、そんな気持ちになる。
「まあ、いいじゃないですか。とりあえず、近くの公園まで移動して、海でも眺めながら休憩しますか? そこまで歩けます?」
「さすがに歩ける……」
十川さんに手を引かれながら、のろのろと歩いて公園に向かった。
公園も家族連れやカップル、観光客で賑わっていた。景色の良い場所が空いていて、そこに座ってのんびりと過ごすことにした。
「風が気持ち良い。もう少ししたら暑くなるし、ちょうど良いタイミングで来ることができて良かったです」
十川さんの柔らかな髪が風に吹かれ、ふわりと動いた。天気の良さもあってか、彼がキラキラと輝いて見える。
僕は体育座りをして膝を抱えながら、そっと彼へと視線を向けた。
なんて穏やかな休日だろうか。
自分の誕生日をこんなふうに祝ってもらえることが、たまらなく嬉しい。
「ありがとうね。お腹もだけど、心も満たされる感じがする」
「なら良かったです」
僕は少しだけ十川さんに近づいた。
「望月さん、髪が……」
十川さんの指先が僕の前髪に優しく触れる。どうやら髪が目にに入りそうで、そうならないように整えてくれたようだった。
思わず目を閉じると、そのまま頬を撫でられる。
「望月さん」
「……ん?」
「何でもないです」
「何それ……」
ゆっくり目を開け、十川さんと視線を合わせると、彼は眉を垂らして笑っていた。
「この後は近くの観光地を巡るのも良いなと思ってたんです。異国の雰囲気を味わえる場所があるみたいで。でもけっこう坂があって大変そうだから、今日はやめときましょうか」
「僕もそれサイトで見てた。十川さんも調べてくれてたんだ」
「当たり前じゃないですか。望月さんと楽しく過ごしたいなあと思って」
変わらず僕の頬に触れたままの十川さんの手に、自分の手を重ねた。僕の頰の熱が移ったのか、彼の指先が温かい。
「今日はこうやってのんびり過ごしたいかも」
「……じゃあまた今度来たときに、そこに行きますか?」
「うん。また来よう」
「約束ですよ」
十川さんがまた僕の頬を何度か撫でると、それからそっと手を離し、また僕を見つめた。
柔らかな風に吹かれながら、僕は少しだけ目を閉じた。
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