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温めたい気持ち4

 しばらく公園で過ごしてから、ポートタワーやその他の観光スポットを巡り、それからショッピングモールへ向かった。  十川さんも僕も、お昼に食べた中華がまだお腹に残っていて、まともな食事はできなさそうだからと、夕飯を食べずに最後は映画を観て終えることにした。  特に何か観たい映画があったわけではないけれど、最近話題になっているコメディものを選んだ。 「さすがにポップコーンはいらない?」 「……僕まだお腹いっぱいかも。飲み物だけにする」 「じゃあ俺も」  ドリンクだけ持ち、指定された席に行くと、思ったより人が入っておらず、後ろの席は十川さんと僕だけだった。 「意外と空いてる」 「ラッキーですね」  ふと、前のほうに座っている人たちを見渡すと、ほとんどがカップルでふたりでポップコーンを食べていた。   中華を引きずっているせいで、ポップコーンを食べること自体に羨ましさはない。  でも、真ん中に置くことで上映中にうっかり手が当たってしまうイベントを想像すると、購入しなかったことを少し悔やんだ。 「望月さん、どうしたの? やっぱりポップコーンほしい?」  僕がそわそわしていたからか、予告が流れる中で十川さんが小声で尋ねた。  僕はただ、ありきたりな妄想をしていただけだから、優しさから気にかけてくれている彼に申し訳なくなる。 「大丈夫……!」 「買いに行くんで、ほしくなったら言ってくださいね」  そう言うと十川さんは僕に微笑み、それから前のほうへと視線を向けた。  スクリーンには、涙を誘うものから思わずビクッとしてしまうほど迫力のあるものまで、観たい気持ちを掻き立てられる予告が流れていた。  映画は上映中に話もできなければ、ポップコーンがないと手に触れることも難しそう。それに、時間も拘束されてしまう。  だから、これまで十川さんとのデートを考えるときに、候補に挙げることはなかった。  けれど、真剣にスクリーンを観ている彼を横までこっそり見つめて反応を確認すると、何に興味がありそうなのかが分かって楽しい気持ちになる。  大きい音声が流れている一方で、音のない場面では急に静かになるから、隣の彼の呼吸の音に気づくこともできる。そういう意味では、特別なのかもしれない。  まあ結局、十川さんとの過ごすことができれば、その全てが素敵で特別だけれど。 「そろそろ始まりますね」  予告が終わると、十川さんが僕の耳元で囁いた。  急に話しかけられたことと、吐息混じりの声があまりにも近くに感じられて、それに少しだけドキリとした。 「楽しみ?」 「うん。評価も良かったし、面白そう」  こそこそと話し、それからお互いスクリーンへと視線を戻した。  「想像以上に面白かったですね。舐めてました」 「うん、面白くてびっくりした! 僕なんか、思わず笑い声が出てしまったときあったもん」 「はは、それ聞こえてましたよ」  映画を観終わると、そこそこ遅い時間になっていた。そのまま駅に向かってふたりで歩く。  それなりに早い時間から集合してこんな時間まで過ごしていたのに、もっと一緒にいたいと我が儘になってしまう。 「十川さん、今日すごく楽しかった。ありがとうね」  真っ直ぐ目を見て伝えることは恥ずかしかったから、少しだけ視線を逸らしてそう伝えた。 「楽しんでもらえたのなら良かったです。俺もすごく楽しくて、あっという間に感じました」 「……ね。今度はもう少し早めに集まる?」 「ええ? もっと早くなら朝起きてすぐ集合にしますか? 体力つけないとですね」  できることなら、もう少し一緒にいたいから終電ギリギリまでどこか店に入らないか、もしくはこの後僕の家に来ないかと、そういうことがさらりと言えれば良かったのかもしれない。  でもそんな度胸は少しもない。もっと早くから集まろうと、それを言うだけで精一杯だった。  十川さんにはそれすらも伝わっていないだろうけれど。 「あと10分で電車来ますね」 「あ、本当だ」  あっという間に駅につき、改札を通りながら時間を確認する。  ここから自宅までは少し時間がかかるけれど、乗り換えまでの十川さんとの時間を考えたら、それもすぐに過ぎ去ってしまうのだろう。 「本当は夕食のときにでも渡す予定だったんですけど、映画だったからタイミングを逃しちゃって……」 「え?」  十川さんが鞄から小さな箱を取り出し、僕に差し出した。   「誕生日プレゼントです。もっと豪華なものをあげたかったんですけど、やりすぎるともらってくれないかもと思って、普段使いできそうなのにしました」 「……もう充分色々してもらったのに、プレゼントまでもらっていいの?」 「ぜひ、もらってください」  目の前で開けてすぐにでもお礼を伝えたかったけれど、電車が来るまであと少しだし、もし落としてしまったら……と考えると、見るのは今ではないのかもしれない。  開けるか、それとも鞄にしまうのか、どちらにしようと迷っていると、十川さんは笑いながら「じゃあ家でゆっくり開けてください。あまり期待しすぎないでほしいですけど」と笑った。 「今は座るところもないし、もし落としちゃったら嫌だから帰ってから開けるね。本当にありがとう」  きちんと彼の目を見ながらお礼を伝え、鞄の中に丁寧に入れた。  サイズ的にはキーケースとか、財布、名刺入れあたりだろうか。  僕のことを思って、もし悩んで選んでくれたのなら、その時間も含めてたまらなく嬉しいな。

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