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温めたい気持ち6

◇  誕生日のお祝いに十川さんと過ごしてから、気づけば2か月が経っていた。変わらず金曜日の食事か、週末のデートを続けている。  それもすっかり恒例になり、特別なイベントがこうして日常に馴染んできたことが、また新たな特別に思えて嬉しくなった。   「次はどこに行こうかな」  近場はけっこう回ったから、中華街のときみたいに遠出しても良いかもしれない。  何箇所か候補を見つけると、僕はスマホを閉じた。   今日は金曜日だけれど、十川さんとの予定もなければ、明日どこかに出かける予定もないし、夜更かしでもしてしまおうか。  映画を見ながらお酒でも飲む? おつまみも買おうかな。  せっかくお風呂に入ったのに、服を着替え、財布を持った。  22時以降の飲酒って、久しぶりじゃないか?    靴を履いて玄関を出ながら、何の映画を見ようかとスマホを開いたとき、画面に十川さんの名前が表示された。  突然の電話に驚いて、心臓が激しく動くようなことはなくなってきたけれど、それでもこうして彼から電話が来ると、スキップしてしまいそうなくらいには嬉しくなる。    でもおかしいな。今日は確か、清水さんたちと飲み会だったはずだ。  どうかしたのだろうか。それとも、何もないけれど飲み会が終わったからと、きまぐれに電話をかけてきた? 「十川さん? どうしたの」 『大丈夫!?』 「えっ?」  聞こえた来たのは、清水さんの声だった。  大丈夫!? とそう尋ねたのは、明らかに僕に対してではなさそうで、何があったのかと心配になる。   かけてきたはずの、十川さんの声が聞こえない。 「清水さん? どうかしました?」 『あっ、楓くん!? え! 楽くんってば楓くんに電話してたの。いつの間に!?』  バタバタと騒がしい音がする。  十川さんに何かあったの……? 「十川さん? 大丈夫?」 『あ、望月さんだ〜』  心配している僕とは対照的な、へらへらとした声が聞こえてきた。   その声が十川さんのものだと分かるのに、しばらく時間がかかる。  聞いたことのない声だけれど、珍しく結構酔っている? 『楓くん? ごめんね。楽くんがすごい酔っちゃってさ……』  清水さんの困った声と、酔ってないですと拗ねたような十川さんの声が聞こえた。 「大丈夫ですか? どこで飲んでます?」  清水さんに場所を尋ねると、僕の家の最寄りから数駅先だった。 「僕、今から十川さんのこと迎えに行きますよ。家近いんで」 『え、でも……』 「十川さんの家に彼ひとりで帰すにしても大変だし、住所もはっきり分からないですよね? 15分くらい待てますか? ちょうどコンビニ行こうと思って、外に出たところだったんですよ」  十川さんが心配なのと、清水さんたちも対応が大変だろうという親切心から来る気持ちと、今から十川さんに会えるかもしれない期待が入り混じる。  どうか任せてほしい。  せっかく電話をかけてきてくれたし、十川さんも僕のことを考えていたのかもしれない。  そう思うのはあまりにも勝手すぎるだろうか。 『お言葉に甘えようかな? 家庭がある人も多くて、男性陣も送れなさそうなんだよね』 「全然良いですよ、すぐ行きます」  十川さんがこんなに酔うとは思っていなかったと、清水さんがため息をついた。    急いで迎えに行くと、店の前で座り込んでいる十川さんと清水さんがいた。  他のみんなは先に帰ったようで、清水さんが何度も頭を下げる。 「こんなに酔ったのは、女子ばかりの席にいたからかも。盛り上がっちゃって、みんなで恋バナしてたんだよね。暇だったからか、楽くんずっと飲んでたみたいで……」  本当にごめん、と清水さんが謝るけれど、いい歳して自分がどの程度までなら酔いすぎないかを把握していない十川さんが悪いのでは? 「清水さん、そんなに謝らないでください。十川さんが悪いんです」  そう言って、彼の頭をぽんと叩いた。 「ん〜? 望月さん……?」 「十川さん、帰るよ」  清水さんとふたりで彼を立ち上がらせると、すぐそこにタクシーが来ていた。  どうやら清水さんが捕まえてくれていたらしい。  お礼を伝えて、ふたりでタクシーの中に押し込んだ。 「望月さ〜ん」   「はいはい」   「なんで〜?」 「十川さんが、そんなんだからでしょ」  へらっと笑いながら、十川さんが僕に抱きついてきた。  後部座席の真ん中を空けて座っているせいで、見るからにきつそうな姿勢だけれど、十川さんはそんなことどうでもいいみたいだ。  膝枕でもしているかのような姿勢で、むにゃむにゃと口を動かしていた。  普段は彼の態度であまり意識しないけれど、こう見ると年下、という感じがする。   まあ、ほとんど変わらないのだけれど。  酔い潰れているわりに、吐き戻すようなこともなく、十川さんは気持ちよさそうにしている。  頼むから吐くのはやめてくれ、とマンションに着くまで願い続けた。      マンションに着いた頃には、少し足取りがマシになっていて、清水さんがいなくても僕ひとりで部屋へと連れて行くことに成功した。  スーツを脱がせて、彼にとっては小さめだけれど、僕の部屋着を着せる。  本当はシャワーをしてもらったほうが良いけれど、さすがにそれは難しい。このままベッドに寝かせるしかない。  煙草の臭いがすごいから、吸わない十川さんにとっても不快だろう。  それに暑くなってきているし、汗もすごそう。 「望月さ〜ん……」 「なに」 「これ、望月さんの匂い……」  色々考えてあげているのに、十川さんは服の匂いを嗅ぎ、ヘラヘラと笑っていた。  そもそも、こんな感じで家に来てもらうつもりなんてなかった。  僕の誕生日の日も、一緒にいたい気持ちが強かったのに、それでも勇気がなくて誘えなかったんだし。  あれから2か月経ったとはいえ、誘うタイミングもなかったし、家に来てもらうにはもう少し時間がかかると思っていた。  思わず彼を叩き、少しでも酔いを覚ましてほしいと水を飲ませる。    水をたくさん飲んだものの、変わらず酔ったままの十川さんが、「宗治郎さんって人は〜、そんなに素敵な人だったんですねえ〜」「あ〜あ、良い人そうな感じはしてましたけど」とぶつぶつ言い始めた。  清水さんが恋バナと言っていたし、きっと宗治郎さんのことも話題に上がったのだろう。

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