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駆け引きなんか知らない2
大袈裟な反応をされなかったこと、あっさり受け入れられたこと、楽と仲良しだと客観的にも言ってもらえたこと、色んなことが重なっていく。
さっきまでは動揺して後悔もあったのに、今では少し嬉しい気持ちも出てきて、自分の都合の良さに笑えてくる。
「え、でもいつからなの? 最近?」
清水さんが、こそっと僕の耳元で囁いた。
「ん? 何がですか?」
「楽くんのこと」
楽のこと……? いつからかって、片想い歴を聞いているのかな?
「まだ半年もないくらいですよ」
いまいち何を聞かれているのか分からないまま、とりあえず片想いしている期間を伝えた。
本当は気づいていなかっただけで、もっと前からそうだったのかもしれない。
でも、自覚したのは園田さんが楽をパフェを食べようと誘っているのを見たときくらいだったはず。
「ええっ、半年もないくらいって、結構長くない? 全然気づかなかったよ」
「……ん?」
何となくで質問に答えてみたものの、清水さんと噛み合っている気がしない。
片想いをしているかどうかなんて、本来全然気づかなくて良いものなはずなのにな。
「清水さん……、ちょっと噛み合ってないかもしれません。何の期間を聞いたんです?」
「え……? 付き合ってどれくらいかってことだよ」
違和感の正体があっさりと分かったものの、僕からするとあり得ない質問だったからそれに驚いた。
僕たちは付き合っていると思われたんだ。
それはあくまでも理想であって、現実では可能性がどれだけあるかすらも分からないのに。
「あの、清水さん……。僕たち付き合ってないですよ」
清水さんの腕を引き、立ち止まると、僕は彼女にしか聞こえないくらいの声で伝えた。
「えっ!?」
清水さんの目が、ゆっくりと、そして大きく開いていく。こぼれそうなくらいになったところで、ぴたりと止まった。
「どういうこと? 付き合ってないなら、どんな関係なの……?」
「僕の片想いなんです」
「え!? 片想い!?」
もうこれ以上開かないだろうと思っていた清水さんの目がさらに開く。
そうするつもりはなかっただろうに、清水さんは思ったより大きな声を出し、慌てて両手で口を塞いでいた。
特定の名前を叫ばれたわけでもないから、それだけなら問題ないのに、自分の声の大きさに驚いた清水さんが、顔を真っ赤にして何度も僕に頭を下げた。
「ごめん! 大きい声出ちゃった……」
「大丈夫ですよ。名前とか出したわけでもないし、他に誰か聞いている人もいないし。気にしないでください」
そう言いながら、とうとう頭を下げたまま動かなくなってしまった清水さんの背中を、とんとんと優しく叩く。
「大丈夫だから、顔を上げてください」
「本当ごめん……、あ……」
清水さんがゆっくりと顔を上げ、僕と視線を合わせ謝罪したと同時に、僕から上のほうに視線を逸らすと固まってしまった。
「清水さん?」
「あ……、えっと……」
「清水さんと楓さん、何してるんですか?」
「え……?」
背後から聞こえた声に、清水さんがどうしてそんな反応をしたのか分かった。
……この声は楽だ。
さっきまで誰もいなかったはずなのに、いつの間にか僕の後ろには楽がいた。
顔を真っ赤にして必死に謝っていた清水さんが、今度は青くなっていく。
「……十川さん」
「十川さんって何? 楽って呼んでくださいよ」
「えっ、だって、清水さん、いるし……」
「そんなの関係ないです」
むすっとした表情で、楽が僕を見る。前みたいに拗ねているのかと思ったけれど、でもそんな可愛いものでもないかもしれないと、何となく思ってしまった。
けっこう怒ってる……?
いや、もしかして話を聞かれてしまった?
でも最後の清水さんの発言を除けば、隣だから聞こえる声量でしか話していないからそれはなさそう……。
「清水さん、井上さんが急ぎの案件だって騒いでましたよ。なかなか戻らないから見てきてって言われて来ました」
「わっ、本当だ。思ったより時間が経ってる。ごめんね、すぐ戻ります」
楽にそう言われ、清水さんは腕時計で時間を確認すると、僕に「ごめん」と囁いて、急いで戻って行った。
清水さんに対しては、楽の態度は特に変わらない。だとすればやっぱり僕が何かしてしまったのかな。
「ねえ、名前呼ばなかったから? だから怒ってる?」
「別に」
どう見ても、「別に」だけで済む反応ではないけれど……。
「楽?」
思わず楽の腕を握ると、楽は眉間に皺を寄せ、唇をぎゅっと結んだ。
子どもが泣き出す寸前のような、そんな幼い印象を受ける表情に、もう一度彼の名前を呼ぶ。
「楽、どうしたの? 何かあるなら言ってよ」
「いや……、楽しそうな話をしてるなって思っただけです。それ、俺には話せないの?」
ちょっとぶっきらぼうな感じで聞かれた。
清水さんと楽しそうに話していたから?
清水さんには宗治郎さんがいるし、僕が好きになる相手は男性だと知っているから、清水さんに嫉妬する要素はないはずなのに。
「話せないって言うか、楽しそうに話していたように見えたのかもしれないけど、内容は別に大したことじゃないよ」
いつかは伝えたい話ではあるけれど、絶対に今ではないから軽く誤魔化すと、楽の眉間にさらに皺が寄った。
「へえ、そうですか。じゃあ俺もこれで失礼します」
最後は僕の目を見ることもなく、他人行儀な態度で会釈した楽は、彼の腕を掴んでいた僕の手に自分のを重ねた。
かと思えばそのまま掴まれ、楽の腕から引き離されてしまう。
「……楽?」
呼んでも振り返ることはなく、いつもより早足で戻って行った楽に嫌な予感がして怖くなった。
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