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駆け引きなんか知らない3

◇  あれから楽と気まずいまま週末を迎えた。  それでも楽と過ごしたいし、何か誤解があるなら解きたいと思い金曜日の夜の恒例の食事会に誘ったけれど、「すみません、忙しいので」と素っ気ない返事だけがメッセージで送られて来た。  休日の予定も聞いてみたものの、土日のどちらも無理だと言われ、家に誘っても来ないと言う。  今までなら絶対に「えっ、行って良いんですか!? 行きます!」と、喜んでくれていたのに。  最近、楽も僕も忙しかったのは事実で、だから昼休憩も一緒にできていない。それでも、週末全ての予定が埋まるのはあり得ない。   土日に出勤なんて、滅多にないのに。 『じゃあまた来週ね』    最後にそれだけ送ったけれど、楽からの返事は『はい』だけだった。  翌週、僕のほうは仕事が落ち着いたけれど、昼を誘う勇気が出す、ひとりで休憩室に行くことにした。  予想通り楽が来ることはなく、それが毎日続いた。  休憩直後に僕がどんよりとした雰囲気で戻って来るからか、隣の西山さんが「休憩してきたんだよね!?」と毎回驚くほどだ。 「望月くん、大丈夫?」 「まあ、はい……」 「最近、十川犬が全然来ないから癒しが足りてないんじゃない?」  いつものように、西山さんが揶揄うようなことを言った。  普段の僕ならそれに対して「何言ってるんですか!」とすぐに否定の返事をするけれど、今はそんなことを返す気力もない。  実際、楽が足りていないのは事実だし、この状況がいつまで続くのかという不安が強い。  僕は、嫌われてしまったのだろうか。  デートみたいに出かけたり、名前を呼び合ったり、自宅を行き来したり。  これまでと比にならないくらい、楽と仲良くなれたと思っていたのにな。 「……そうですね。十川犬が足りないのかも」  自分で言いながら、目頭が熱くなった。視界がぼんやりと歪んでくる。 「え!? ごめん。いつもならそんなこと言わないで怒るのに。よほど疲れてるんだね。無理しないで、どうしてものときは帰るんだよ。私が代わりにやれるからさ!」  僕の反応が西山さんの想像とかけ離れていたせいか、西山さんは焦った様子を見せた。 「ありがとうございます。でも大丈夫です……」  可愛げのない後輩だと思われるかもしれないけれど、最低限の返事だけをして僕はパソコンへと向かった。  ゴシゴシと目を擦る。  このまま楽と話すことができなくなったら、彼の家に行くしか、話せる方法はないのかな。  清水さんと話しているのを見られたあのときに、自分の気持ちを知られたくないと思ったけれど、それ以上に最悪なタイミングで伝えることになるのかもしれない。  翌週も翌々週も、楽は「忙しいから」しか言わず、昼休憩も週末も全てのタイミングが合わないと断られた。  廊下ですれ違ったときも、僕をると見すぐに視線を逸らして早足で去って行くから、なかなか話しかけることも難しい。  それになぜか、毎回拒否している側の楽が泣きそうな表情をするから、僕も困惑して足が止まってしまう。    でもやっぱり、ここまで避けられてしまうのは、僕の気持ちがバレてしまったのだろうか。  ふたりでどこかに出かけたり、家に行くような関係を続けたがっていた楽からすれば、僕のこの気持ちは迷惑だったに違いない。  それにしても、あまりにも酷すぎる。僕の恋愛対象が男性だと知っても、それでも構わず距離を詰めてきたのは楽だったのに。  ……いや、違うか。それを裏切った僕が悪いんだ。 「はあ……」  これからどうなるとしても、さすがにこの状態が続くのは自分の精神的にも良くない。僕は仕事終わりに、楽の家に行くことを決めた。  定時終わりに急いで職場を出て、小走りで駅まで行くと、ちょうど来た電車に飛び乗った。  楽より早く家に着かなければならない。  僕のほうが後だったら、彼は玄関を開けてくれない気がする。  楽のマンションはオートロックだから、勝手に入ることはできないけれど、たまたま出てきた人がいて自動ドアが開いたから入らせてもらうことにした。  部屋の前で待つのは周りから怪しまれそうだから、やめておいたほうが良さそうだ。  僕は1階エレベーター前に置いてある椅子に座って待つことにした。観葉植物とテーブルもあるから、ここでスマホでも触りながら待てば、マンションの住人らに変な印象は与えないだろう。 「ふう……」  誰かが出入りする度に顔を上げ、楽ではないかと確認をする。  もし楽が入って来たらどのタイミングで声をかけるのが良いか、何度も頭の中で考えた。  あまり早すぎるとエレベーターに乗せてもらえないかもしれないし、エレベーターに乗ってからだと、もし違う人が乗り込んで来たときに迷惑がかかりそう。  そもそも、会った瞬間にどう声かけするかも決められていない。  いきなり自分の気持ちをぶつけるわけにはいかない。  でも、言いたいことから離れた内容から攻めていると、本題に入る前に終わらせられてしまうかもしれないし。  早く会いたい気持ちと、会いたくない気持ちの両方がある。  けれど時間が増えるにしたがって、会いたくない気持ちの割合が大きくなってきたように思う。  スマホを持っている手が震え、暑いのに冷や汗まで出てきた。

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