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楽との日々2

「痕、ついちゃう!」 「こんなんじゃ痕はできないよ」 「ねえ待って……、お昼食べないと」  職場なのに、自分の身体の感度が上がっていくような感覚がし、必死に楽から逃れようとバタついてみた。  けれど、楽の力の強さには敵わず、好きに触れられてしまう。  背骨をなぞるように触れられ、思わず身を捩った。 「……楽、だめ、」 「……お昼食べる前に、少しくらい良いでしょ? 俺ずっと我慢してたんだから」 「……あっ、」  再び後頭部に回された手は、髪に触れるなんて優しいものではなく、強引に僕を引き寄せると、彼のキスから逃げられないようにしてしまう。  呼吸したくて口を開くけれど、その隙間さえ惜しいと追いかけられ、舌を捩じ込まれた。    歯列をなぞられ、奥へと逃げる僕の舌は彼のに呆気なく捕まる。  ふたりの唾液が混ざり合う音が耳に響き、脚に力が入らなくなってきた。  付き合ってからまだそんなに経っていないから、こういう触り方をされるまでにはもう少し時間がかかると思っていたのに。  どうして職場で、こんなこと……。 「楽……っ、ね、えっ、や、めっ、て……」  これ以上はダメだ。今誰かが入ってきてしまったら誤魔化せない。  目をぎゅうっと瞑ったとき、やっと唇が解放され、楽は僕の口元を指先で拭いながら笑っていた。 「怒った?」  全く反省していない様子で、満足そうにしている。 「もう……信じられない」 「ご飯食べて落ち着かせて、夜に続きしましょうね」 「続きって……」  いったい落ち着くまでにどれくらい時間がかかるのかと、そんなことを思いながら、楽から少し離れて座った。 「楓さん、何でそっちに行っちゃうの」 「楽が暴走するから」 「ごめんってば。もうしないから許して?」 「ごめんって思っていないくせに!」  恥ずかしさと嬉しさ、怒り、戸惑いでぐちゃぐちゃになりながら、僕はお弁当箱を開け、温めることもなくおかずを口に一気に詰めた。  全身を巡る熱が冷める様子もなく、頭の中も沸騰して爆発してしまいそうだ。    楽の言葉が何度も甘い声で再生される。  続きって、何? 続きってやっぱりそういうこと? 「あああ!」 「楓さん!?」  食べ物詰まっちゃった? と心配した楽が、また僕との距離を詰め、飲み物を差し出した。   それを受け取り、ごくごくと流し込むと、冷たい水が流れていく感覚がし、少しだけ熱が落ち着いたように感じた。  ……まだキスまでしかしたことがないのに。  続きって、帰宅してからもまたキスをするってこと? それともその先ってこと……?  横目で楽を見ると、パニックになっているのは僕だけで、彼は爽やかな顔をしておにぎりを食べていた。 「ねえ、何でそんなに余裕なの!?」 「余裕って?」 「さっきまで、あんな、あんな……!」 「ん?」 「もういい!」  再びお弁当を口に詰め込み、必死に口を動かす。    僕だって、そういうことを考えなかったわけではない。  明日は楽の誕生日だから、そこまでには覚悟を決めようとは思っていた。  実際にするかどうかは分からないけれど、僕が一方的に覚悟して準備しておく分には構わないと、その程度だったはずなのに。  急に現実味を帯びて目の前にやってきてしまったから、それにどう向き合えば良いのか分からない。 「……あ!」 「え?」  落ち着きのない僕が、また叫んだからか、楽は食べる手を止めて僕を見つめた。  そうだよ、覚悟を決めたのは楽の誕生日だからなのに。明日なのに……! 「本当に今日から泊まって、明日も僕の家でゆっくり過ごすだけで良いの?」  僕が彼にしてもらったように、楽の誕生日もどこか遠出したい気持ちはあったけれど、すれ違っていた期間があったせいで、僕も彼の誕生日のプランをゆっくり練ることができなかった。  すぐに来てしまう誕生日をどうお祝いしようかと思っていたら、「楓さんの家でゆっくりしたい」と楽に頼まれ、じゃあそうしようかと受け入れてしまったのだけれど、本当にそのレベルのお祝いで良いのだろうか。 「だって楓さん。家だったら、さっきのキスで止めなくて良いんですよ?」 「……ごほっ、」 「俺は一日中楓さんとくっついていたいです。24歳の終わりから、25歳になる瞬間も、ずっと楓さんに触れてたいからさ」    楽が僕の頬に触れると、ふにゃりと笑った。これはやっぱり、そういうことも期待されているのだろうか。  でも僕が覚悟を決めたとして、楽は本当に反応してくれるのかな。  キスまでだったら、男女差がそこまでないのかもしれないけれど、服を脱いだらまた違うだろうし。  僕は筋肉がすごいわけではないものの、どう見たって男だし、柔らかくもないから。  自分のことでいっぱいいっぱいになっていたけれど、さっきの楽の反応をもう少し見ておけば良かったと、そう思いながら視線を落とした。  何の反応もしていない楽の身体を見ながら、さっきからそういうことばかり考えている自分に恥ずかしくなる。 「楓さん?」 「……何でもない。分かった。僕の家でゆっくり過ごそう。今日の帰りに色々買い物もしておこうか」 「そうしましょう! すごい楽しみです」  ちゅっと軽く僕の頬にキスをした楽は、くしゃくしゃの顔で笑っていた。

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