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楽との日々4
帰宅するとまず、惣菜をテーブルに並べた。
ひとり暮らし用のテーブルが埋まってしまうくらいの惣菜を買っていることに気づき、ふたりで「買いすぎ」と笑い合う。
温めが必要なものは皿に盛り、そうでないものは「洗い物が増えるから」と楽がパックのまま置いていた。
僕はいちいち皿に盛らなくても気にならないほうだから、楽も当たり前にそうしてくれたことが少し嬉しい。
誕生日のお祝いなのだから、今日くらいは綺麗に盛りつけても良かったのかもしれないけれど。
「今日の仕事はどうだった?」
向かい合って座り、サラダを取り分けながら楽にそう尋ねると、分かりやすく眉間に皺が寄った。
わりと難なく仕事をこなせるタイプなのに、こういう表情をするなんて珍しいな。
「微妙だったんだ?」
「そうなんですよ。今日はあまり……な感じでした。取り引き先の人が、俺の苦手なタイプの女性なんですよね」
「え……」
苦手なタイプ、女性、どちらのワードも気になり、手が止まった。
そういえば僕は、男女に限らず楽の苦手なものをあまりにも知らない気がする。
「苦手なって、どんな……?」
もしかして僕も彼にとって苦手な振る舞いをしていることがあったかもしれないと、そう思いながら恐る恐る尋ねた。
「あー……、園田さんみたいな、グイグイくるタイプの人です。今日の人は、伝言で十分な内容でも必ず折り返しになって、数分で終わる内容なのになぜか数十分かかったりするんですよね……。郵送で済むのに直接渡しに来たりとか」
「ええ!? それは面倒すぎる……し、僕も、嫌だ……」
僕には当てはまりそうにないものだったから、その点では良かったのかもしれない。
でも、知らない情報にも、そんな危険な女性が近くにいたことにも戸惑ってしまう。
それにまさか園田さんの名前が出てくるとは思っていなかった。あのときの彼女のことを思い出し、嫌な気持ちで胸がざわざわした。
そもそも、彼女は今どうしているのだろうか?
あの日以降、楽の部署で見かけたことはないし、僕も仕事で接点がないから、たまたま会わない限りは関わることもできないし。
……まあ、関わりたくはないけれど。
何度か手が止まりながらもようやく取り分けたサラダを楽の前に置くと、代わりにおかずの盛り合わせを渡してくれた。
器用だからか、ワンプレートランチのように綺麗に盛り付けられている。
「……まあその女の人に関しては、いつも清水さんが割って入ってくれて、ようやくって感じです。何回対応してもあの人は慣れないですね。でもそろそろ俺の担当からは外れるんで、もう少しの辛抱かな」
「全然知らなかった……。そんな人もいたんだね」
言ってほしかったかと言われれば、進んでそうしてほしかったわけではない。
かと言って、知らないのはそれはそれで嫌だったと、自分でもよく分からない気持ちになる。
サラダを口に含むと、必要以上に噛んでから飲み込んだ。
「俺も嫌すぎて、あの人に関わるとき以外は存在すら忘れているので、伝えたことがなかったかもです。それに心配させてしまうかなとも思ったし」
楽が僕の顔を覗き込む。
口に含んだ料理をまた多めに噛みながら、気まずさから視線を逸らした。
「……楓さん、大丈夫? 嫌な話、だったよね。ごめんね」
手を伸ばした楽はゆっくりと僕の頬に触れ、指先で何度かそっと撫でた。
「別に楽の気持ちを疑うとか、そういうことは一切ないんだけど……」
「うん……」
「でも、楽ってかっこいいから、やっぱりモテるんだなあって思ったり、……その、えっと、園田さんのことも思い出してしまったり……。最近どうなのかなとか……」
気持ちをこぼしながら、あまりにも面倒な自分に嫌気がさしてきた。でも気になったことを正直に伝えた。
「園田さんはあれから俺のところには来ないし、別の部署で、俺らよりけっこう年上の人にアプローチしてるの見かけましたよ」
「そうなんだ」
誤魔化す雰囲気もなく、楽がきっぱりと言い切ってくれた。
ここで気を遣われると余計に気になってしまっただろうけれど、楽は僕に心配をかけたり不安にさせないと気遣ってそう答えたわけではなさそうだ。
だからこそ、園田さんが別の男性にアプローチ中という事実は、すんなり受け入れることができた。
「仮に他に言い寄られても、俺には楓さんしか見えてないからさ。これからもずっとね」
「……それは、嬉しいけど、でも、」
「でも?」
我が儘かもしれないけれど、楽が女性に対してどう思うかよりも、そういう女性が周りにいること自体が嫌なんだ。
園田さんはバレンタインのときに、彼女と楽の関わりが増えて楽に好かれているような気がすること、バレンタインを機に関係を進展させたいこと、もう少しで落とせそうなこと、とにかくたくさん言われて気持ちをかき乱されたから。
おかげで自分の気持ちに気づけた良い面もあるけれど、だからって彼女に感謝したいとは思わないし。
「特に園田さんは、本当に色々言ってきて僕の気持ちを掻き乱したから嫌だったの。また会いに来てたらどうしようって思った」
「え? そうだったの?」
「……うん。それで僕は、楽のことをとられたくないって思ったし」
「うわー……、楓さんが素直に気持ちを教えてくれるの、良いなあ。俺のこととられたくないって思ったんだ? 可愛すぎ……」
楽は両手で顔を覆うと、「あー……」と言いながら大きく息を吐いた。
「素直にって言うか……、楽のこととられたくないのは当たり前、だし……」
「ねえ待って、やばいんですけど。もしかして誕生日のサービス?」
「違うよ……! 本心だから言っただけ。揶揄わないでよ」
「……すみません、揶揄ったんじゃなくて、全部が可愛くてやばいってことです」
ご飯を食べている場合ではないとブツブツ言いながら、楽は赤くなった頬を手の甲で冷やしていた。
僕の面倒な気持ちも、こうしてポジティブな好意として受け止めてもらえて嬉しい。
こちらが見て恥ずかしくなるくらい、楽は喜んでいるように見えた。
「俺のデレ具合……やばいですよね?」
「さっきからやばいしか言ってないくらいには、やばい……のかもね」
つられて僕も恥ずかしくなり、アルコールを一気に口に含んだ。
何もかもが甘い。今でもこんなに甘いのに、これからどうなってしまうのだろう。
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