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楽との日々8
◇
行為を終え、ふたりで軽くシャワーを浴び、それからお揃いのパジャマへを着た。
しわくちゃになったシーツをはがし、洗濯機へと突っ込むと、それから新しいシーツをセットした。
実際に触れ合う前は、事後はどんな顔をして楽のことを見れば良いのか分からなかったけれど、終えた今はただただ幸せで、それを噛み締めることしか考えられない。
気づけば楽のことを目で追い、緩む頬を戻すことの繰り返しだ。
「お誕生日おめでとう」
ようやく落ち着いた頃、ちょうど日付が変わり、楽の誕生日になった。
食事のときに食べなかったケーキを冷蔵庫から取り出し、「こんな時間だけど」と言いながら、数字のろうそく火をつけた。
わざわざ電気を消さなかったけれど、僕が少し掠れた声で歌うと、楽はそれを嬉しそうに聞いていた。
「幸せだあ……」
ろうそくの火を消し終えると、楽が消えそうな声でそんなことを言い、それから僕を抱きしめた。
ありがとうと耳元で言われながら、僕の背中を優しく撫でる。
僕は楽の胸元に頰を擦り寄せた。
残った分は朝ご飯にしようと、今食べられる分だけカットし、きれいな皿に盛り付ける。
ホワイトチョコのプレートを楽のケーキに乗せ、改めておめでとうを伝えると、楽はそれを何度も写真におさめていた。
「ところで、こんな話をするのはどうかと思ったけどさ……」
「ん? 何ですか?」
ケーキを食べながら、僕はずっと気になっていたことを尋ねてみることにした。
「楽はどうして僕を好きになったの? いつから……?」
僕が楽を好きになった理由は、彼から見ても想像しやすいだろうけれど、楽が僕を好きになったきっかけが本当に分からない。
出会いはこの職場に違いないとして、あの日楽にあんなふうに絡まれるまで、ほとんど接点がなかったから、あのときから好意があったのか、それとも興味だけだったのか。
もし興味だけだっだとしたら、いつから好意に変わったのだろう。
「……言わないとダメですかね」
「ダメではないけど、気になるから……。そんなに言いにくいこと?」
「いや、引かれそうで……」
「何を言われても、べつに引かないよ?」
楽はしばらく渋った様子を見せていたけれど、そうされればされるほど気になってしまう。
好きになった理由がそんなにも特殊なのか?
頭の中で色々予想してみても、何も浮かばない。これは絶対に聞くしかないと、じっと楽を見つめると、楽は僕から視線を逸らし、眉を垂らした。
「……楓さんさ、学生の頃、大学近くのケーキ屋によく行ってたでしょ?」
「え? ケーキ屋?」
大学生のときに、確かにケーキ屋に通ってはいたけれど、もう何年も前のことだ。
それに今はそのケーキ屋は、SNSでバズったせいで人があまりにも多くなり、なかなか買えなくなってから行かなくなっているお店だった。
「行ってたけど、それがどうしたの? てか、何で知ってるの?」
てっきり職場でのきっかけだと思っていたのに、昔の、そして予想外なところでの出会いで、頭が混乱してしまう。
季節の果物のケーキがおいしくて、確かに月に何度も通っていたことはあったものの、あのケーキを作っているのは女性だったはずだ。
楽もそのお店に通っていたってことか?
……ダメだ。いつも綺麗でおいしそうなケーキしか目に入っていなかったから、ケーキ以外の情報で覚えていることがほとんどない。
何も思い出せずに頭を抱えると、楽が「実はあの店、俺の姉がやっているんです」と言葉を続けた。
「ええ!? そうだったの!?」
お客さんじゃなくて、店側の人だったのか! と驚くと同時に、だとしてもあまりにも記憶になく、申し訳なさが続いて押し寄せる。
「休みの日に、たまにレジ係として手伝いに行かされてて。最初は嫌々行ってたんですけど、俺がレジにいるときにタイミング良く楓さんが買いに来てくれて、いつも真剣にケーキを選ぶからさ。可愛い人だなって思ってて……」
「……え。ごめん、本当に思い出せない」
素直に謝ると、楽が笑った。
「楓さんは、お会計中も選ばなかったケーキを見つめて最後まで悩んでいましたからね」
「……うう、恥ずかしい」
僕は何も覚えていないのに、楽は僕の思い出がいくつもあるようで、次々にエピソードを話した。
これが嘘なら良かったのかもしれないけれど、身に覚えのある話ばかりでなんだか恥ずかしい。
一方的に知られているって変な感じがする。楽が最初から僕が甘いもの好きだと知っていたのも、ケーキ屋がきっかけだったんだな。
「こういう苺がたくさん乗ったケーキが好きでしたよね?」
楽が皿に乗せたケーキを指した。
「それは! そうだけど、でも! 僕が好きだからこのケーキにしたんじゃないよ!」
「ふふ、分かってますよ」
フォークに苺を刺し、楽が僕のほうへと向けた。それにかぶりついて睨むと、さっきまで引かれるかもしれないと心配していたくせに、楽はけらけらと笑っている。
それに少しだけムッとしたけれど、でも冷静に考えてみると、楽が僕を想ってくれていた期間があまりにも長く、それを実感して急に緊張してきた。
もちろん、その間に彼女がいたかもしれない。さすがにそこまでの長い期間、片想いをし続けてくれたかもだなんて、そんな贅沢なことは思わない。
でもひとつ、楽はべつに男性が好きな人ではなかったはずだ。
それなのにどうして僕を?
「……楽ってゲイじゃないよね?」
「今まで付き合った人はみんな女性だったし、好きになった人も女性でしたよ。男で好きになったのは楓さんが初めて」
初めて、と聞いて嬉しい気持ちがある反面、その初めてを引き当てるほどの魅力が僕にあったことに驚く。
いったい僕の何が彼に刺さったのか。
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