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楽との日々10
◇
「楓さん」
「ん?」
「宗治郎さんにメッセージ送ってるんですかあ?」
スマホを触っている僕の後ろから、楽が拗ねた様子で覗き込んだ。
10月末になり、宗次郎さんの誕生日だったからメッセージだけでもと、いつものように送っていただけだったのに、それも面白くなさそうな表情をしている。
「嫉妬してるの? 誕生日のお祝いメッセージを送っただけだよ」
「べっつに〜!」
宗治郎さんへの気持ちに、今は恋愛感情はないから、前よりも自然に関わることができるようになったとはいえ、ふたりきりでは会わないようにしている。
こうして時々メッセージのやりとりをするくらいで留めているけれど、楽に隠しているわけではないから、彼の目の前でメッセージを送ると、こんなふうに絡まれることがたまにある。
「宗治郎さんは、仲の良い先輩であることは変わりないしね」
「分かってます」
そうは言っても、楽の態度があまりにも露骨だ。
それに笑っていると、楽は眉間に皺を寄せた。
「楽、拗ねないで」
「拗ねてません!」
「良いことあるからさ」
僕は宗治郎さんとのやりとりの画面を閉じ、旅館のホームページを開くと、それを楽の顔へ押し当てるようにして見せた。
「え?」
徐々に眉間の皺が消えていったかと思うと、状況が読み込めないようで再度皺が寄る。
「何これ?」
「来月、ふたりで旅行に行きたいなって」
画面を彼から離し、座っていたソファの隣をぽんぽんと叩くと、楽は大人しく僕の横に座った。
「旅行? 来月?」
「うん。そう」
「嬉しいけど、どうして?」
「ふたりでゆっくり出かけたかったのと、誕生日のお祝いがやっぱり中途半端だったから、しっかり祝いたいなと思って」
今回はサプライズにしたかったから、楽の意見は聞かずに決めてしまったけれど、それはやっぱり微妙だったかな。
黙ったままでいる楽を、不安になりながら見つめると、突然「わー!」と大声を出し、それから僕へと抱きついてきた。
「楽……!?」
「やばい、嬉しすぎる……! 少し遠出したことはあっても、旅行は初めてだから」
思わず苦しいと、楽の背中を叩いてしまうくらいに、楽が僕を抱きしめる力が強かった。
それだけで、どれほど喜んでくれているのか伝わるから、楽のことが可愛くてたまらない気持ちになった。
「嬉しい?」
「うん、嬉しいです」
「どんな部屋にするかとか、そういうのは当日のお楽しみだからね。見せるのはこれだけだよ。自分で旅館の名前を調べたりしないでね」
「分かりました。見ないです」
「絶対だよ」
楽の耳にそっとキスをすると、僕を抱きしめる力がさらに強くなった。
あっという間に旅行当日になり、緩む頬をそのままに新幹線に乗った。
前日の夜から僕の家に集まり、ふたりで準備をしたことから既に楽しく、到着してからのことを考えると、ふわりと宙に浮いているのではというくらいに気分が良い。
旅館の周りは自然ばかりで、目立った観光地がない。僕たちはいったん別の駅で降り、コインロッカーへ荷物を預けた。
「おいしそうなのがたくさんありますね。何から食べますか?」
「迷う……。コロッケ食べたいかも……」
駅弁を食べても良かった気はしたけれど、せっかくだから食べ歩きでも良いねという話になり、その都度食べたいものをふたりで分けることになった。
「じゃあ俺が出しますよ」
「あ、待って。僕が払う」
「さっきも言いましたけど、払わせてください。好きなもの食べましょう」
旅館は僕が決めたし、楽の誕生日をしっかり祝い直したいという僕のエゴで計画した旅行だったから、旅館代は全額僕が払いたいとお願いした。
そのせいで、交通費やその他の食事代などは全て楽が支払いたいという話をしていた。
さすがにそれは、と思って止めたけれど、楽も一切折れず、気づけば支払われてしまっていた。
「楓さんが計画してくれたことが嬉しかったし、そのお礼とでも思ってよ。ね?」
「……う、ん」
それでも今回は僕が払いたかったと、そういう気持ちが表情に出ていたのかもしれない。
楽は僕の眉間に指先を当て、ぐりぐりと押した。
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