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予報は雨2
「楓さん、おはよう」
「おはよう」
昨晩のことがあったから、あまりすっきりしない目覚めだった。
それでも、楽に穏やかな声でおはようと言われると、不思議なことに少しだけ気持ちが楽になった気がした。
僕たちなりに過ごしていければそれで良いと思っていたけれど、それだけじゃダメなのかもしれないと、急に考えなければいけないことが迫ってきたように感じて動揺してしまった。
眠い目を擦りながら、隣にいる楽にすり寄ると、髪にキスを落とされる。
「楓さん、デートしようか」
「デート?」
「うん、出かけようよ」
昨晩のことで色々悩んでいたのは僕だけのようで、楽は特に何も気にしていないようだった。
僕の不安を察して誘ってくれたのかなとも思って見つめたけれど、「ん?」と優しい顔をした楽はいつも通りに見えたから違ったみたいだ。
楽の口から出た結婚という言葉に過剰に反応し、深く考える必要はなかったのかもしれない。
「どこに行く? ブックマークしていたカフェの中から選ぶ?」
身体を起こし、大きく伸びをしながら楽を見る。
先日見つけて、お洒落なカフェをたくさんブックマークしたから、その中から選ぶのが良いかな。
苺の季節だし、苺のパフェやケーキが食べられるところに行きたい。
手を伸ばしてスマホを取ると、ブックマークを開き楽に見せた。
「楓さん、苺でしょ?」
「うん、苺」
「それも行くとして、今日はまず服を買いたいから付き合ってほしい」
「あ、そうなんだ。良いよ、付き合うよ」
僕は店員さんに話しかけられるのが苦手だから、普段はネットで買っているのもあって、そういう買い物自体が久しぶりだ。
自分の服だったら緊張してしまうけれど、楽が選ぶのを見ていれば良いのだから、それなら大丈夫そう。
普段はなかなか見られない自分の服も、何か良いものが見つかるかもしれない。
「何かほしいものがあったの?」
「うん。楓さんとお揃いの服」
「え? お揃い?」
「そう。全く同じじゃなくて、柄とかカラーが似ている服でも良いから。楓さんとそういうコーデがしてみたい」
「……あ、」
まさかの提案に驚き、言葉が出てこなかった。
嬉しい気持ちが大きいけれど、昨晩のことがあったタイミングだったから、恋人の証明とも思えそうなお揃いという言葉に敏感になってしまう。
これまでは嬉しい気持ちしかなかったはずなのに、今は余計なことまで考えて素直に受け取ることができない。
水族館のハンカチで喜んでいたあの頃が懐かしく思える。
お揃いの服は、全く同じにしたら変に思われるかもしれないだとか、反対にお揃いにしても誰からも恋人に見られないかもしれないだとか……。
結局僕たちを恋人たらしめてくれるものって、何なんだろう。
「良いよ。……うん、見に行こう」
「やったね。ありがとう」
そうと決まれば早く準備をしなければと、楽はあっさりベッドから出て行った。歌を口ずさみながら身支度を始める。
楽みたいに嬉しさだけ表現できれば良いのにと、彼の背中を見ながらそんなことを思う。
ゲイの僕と楽の根本が違いすぎるからこうなるのかな。それとも単に性格の問題なのかな。
「分かんない……」
どんよりした気持ちが、昨晩のように溢れてくる。僕は目を擦る振りをして、涙を拭った。
とりあえず大きめのショッピングモールに行くことになり、ぶらぶら歩いていると、わりとすぐに好みの店を見つけた。
「楓さん、ここ入ってみる?」
「雰囲気良さそうだね」
元々、僕と楽の服装の雰囲気がかけ離れているわけではない。
似せようと思ったら今持っている服でもどうにかなりそうだと伝えてみたけれど、楽は新しいものがほしいようだった。
たまたま持っている服で合わせるのも良いけれど、ふたりで選んだ思い出が加わることで特別になるらしい。
彼なりに僕との思い出を増やそうとしてくれていることは、捻くれて考えてしまう僕にとっても嬉しいことだ。
あれこれ思うことはあっても、今は忘れて、せっかくの楽との時間を楽しむほうが良いに違いないと、頭を横にブンブンと振った。
「楓さん?」
「はは、何でもない」
虫でも飛んでた? と気にしてくれる楽に、笑いながら大丈夫だよと伝え、店の中に入った。
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