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予報は雨3

 マネキンが着ていた服や、店の入り口付近に飾ってある雰囲気通り、店内にも好みの服が並んでいた。  店員は女性と男性がおり、「いらっしゃいませ」の挨拶後、レジ内で話しているからしばらく来ることはなさそう。  ゆっくり見られそうだと思いながら、楽とあれこれと眺めていると、想像より早く女性の店員さんがやって来て、「ご試着されてみてくださいね」と声をかけてくれた。  買い物中に話しかけられるのが苦手な僕は、そこから話が続いたらどうしようと構えてしまった。  けれど、楽は特に気にならないようで、そのまま店員さんと話し始めた。 「ふたりでお揃い感のあるコーデをしたくて。全く一緒でなくても良いので、色とか形とか、柄が似ているとかで、何か良い感じのありません?」 「それでしたら、こちらはいかがでしょうか?」  何を言い出すの!? 怪しまれてしまうじゃないか! と焦る僕に構うことなく、楽も店員さんも、目の前の服を見始めた。  襟元の色が華やかな柄のシャツで、僕は着ないかも……と思ったけれど、「セーターの下にも着られますよ」との説明を聞きながら、それなら大丈夫か……と、少し離れたところでふたりのやりとりを聞く。  けれど、このまま「どう思いますか?」と話を振られることになったら気まずいと思い、僕はさらに離れたところで自由に服を見ることにした。    さっきのシャツはセーターの下に着るのはどうかと言われていたからと、セーターを手に取ってみると、とても肌触りが良く、値段も高すぎることもなく手頃だった。  セーターを色違いにしてみるのも良いかもしれない。自然だし、上にコートを羽織れば、お揃い感が強調されることもなさそうだ。  中に着るシャツもさっきの同じ柄の色違いにして、襟元を遊ばせれば……。  でも、暖かくなってきて、あのシャツ1枚で着るのは勇気がいるけれど……。  頭の中で僕たちに似合うかどうかをイメージしながら見ていると、「そちらの商品、肌触りが良いし、暖かいので人気なんですよ」と急に横から声がした。 「……っ」  楽の対応が終わったのか、店員さんがいつの間にか僕の横にいた。  服に夢中で気配に気づかなかったから、あからさまに驚いた反応をしてしまったけれど、彼女は穏やかに微笑んでいるだけだった。 「あの、肌触りすごく良いですね。色はここに出ている分だけですか?」 「色は……そうですね、そちらに出ている分だけです。お客様には、手に取られているそちらのお色が似合いそうですね」 「あ、ありがとうございます」  持っているセーターを戻すタイミングを失って戸惑っていると、店員さんは「あちらの方には、こちらのお色なんてどうでしょう?」と楽に似合う色を勧め始めた。  ますますどうしたら良いのか分からなくなる。  楽、早くこっちに来てくれ! と、心の中で叫んでみたけれど、聞こえるはずもない。  振り向いて確認したら、彼は真剣な顔でさっきとは違うシャツを見ていた。  ダメだ、気づいてくれることは絶対にないから、僕から呼びに行かないと。 「確かに似合いそう……! ちょっと呼んできます」  焦った僕がそう言って楽のほうへ行こうとしたとき、店員さんは優しく笑い、「お揃いの服を探すなんて、本当に素敵ですね。そういう友人関係に憧れます。何歳になってもワクワクしますね!」と言葉を続けた。  一瞬、頭が真っ白になって、身体の感覚が抜ける気がした。  お揃いにして恋人と思われるのはどうかな……と人目を気にしていたくせに、いざ当たり前に友人に見られ、僕たちに恋人と思われる要素がないのだと分かれば、それもこうして傷ついてしまう。  馬鹿みたいだ。あまりにも勝手すぎる。 「……あ、はい。ありがとうございます」  返事をする声が震えた。  抱えているセーターを棚に戻して、この場を去ったほうが良いのでは? というくらいに動揺もしている。  彼女は嫌味でも何でもなく、きっと肯定的な意味合いで伝えてくれただろうに。僕も今日でなかったら、笑顔でその場をやりくりできたかもしれないのに。  タイミングが悪かった。  僕は、セーターを落とさないように抱え、軽くお辞儀をすると、楽へと視線を向けた。    これからも僕たちは、誰かに恋人として見てもらえることはないのかもしれないと、そう思ったらまた、涙で視界が歪んだ。 「楓さん、これは?」  僕の視線に気づいた楽がこちらに手を振り、手に持っている素敵なシャツを僕に見えるように高い位置に持ち上げる。  さっきの派手な柄とは違うシャツだったけれど、襟元のデザインがお洒落で、僕が選んだセーターに似合いそうだ。 「楓さんが持っているそのセーターも良いね。このシャツと合わせて買う?」 「……うん」 「楓さん? どうしたの? 疲れちゃった?」 「違うよ、大丈夫」  心配そうな楽から目線を少しだけ逸らし、今の僕にできる精一杯で口角を上げた。    僕たちの、恋人の証って何だろう。証明してくれるもの、繋いでくれるもの。ふたりの気持ち以外には、何もないのだろうか。

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