93 / 110
予報は雨4
◇
2月になり、徐々に年度末が近づき忙しくなる中、今日は珍しく村田さんと外勤だった。
新しい取引先に行く村田さんを見て、勉強させてもらうために同行していた。
「村田さんと外勤、久しぶりでしたね。勉強になりました」
職場に戻る車の中で、僕は運転している村田さんに話しかけた。
この会社に勤めてそこそこ経つから、当たり前にできることが増えてきた。
でもこうして、たまに先輩の仕事を見ることで、また新たな視点が得られるからありがたい。
「確かに久しぶりだったね。基本的にひとりか、望月くんの場合は、俺よりも西山さんのほうがまだ多いからねえ」
勉強になったのなら良かったよと、村田さんは穏やかに笑った。
「運転もすみません、ありがとうございます」
「全然良いよ〜。気にしないで」
勉強のために同行したのに、先輩に運転させるのは申し訳ないと思いつつも、村田さんはむしろ運転が好きな人だから少しだけ罪悪感が薄れて助かる気持ちもある。
「あ、そういえば、帰りに寄りたい場所があるんだけど、少しだけ寄っても良い?」
「構わないですよ」
別の取引先かな? と、村田さんが最近持っている仕事を思い浮かべて見たけれど、どれも違いそうだ。
自分も忙しいのもあって全てを把握しきれていない。
「ありがとうね。車の中で待ってても良いけど、せっかくだから一緒に来る? 書類を渡すだけではあるけど、顔見知りを増やすのも良いしね」
「良いんですか? じゃあせっかくなので」
村田さんは関係作りが上手だからこそ、こういう機会は、些細なことだとしてもありがたいと、嬉しい気持ちになる。
今日は全体的に良い1日だったなあ。
しばらく車を走らせると、宗治郎さんの職場近くまでやって来ていた。
ここに来るのは宗治郎さんとあの日食事をしたとき以来だと思いながら、窓から彼の職場を見ていると、徐々に建物が大きく目に映るようになり、そのままそこの駐車場へと入って行った。
「え? ここですか?」
「そうだよ。来たことある?」
来たことがあるのもそうだけれど、このタイミングでまさか来ることになるとは思っていなかった。
「知り合いの会社で……」
「へえ! そうなんだ! どんな知り合いなの?」
「大学の先輩だった人で」
「あ、じゃあその人だったら良いね。お楽しみってことで名前はまだ言わないでおくね」
車を降り、受付を済ませると、そのままエレベーターに乗った。これで担当者が宗治郎さんだったら、どんなに良いだろう。
知り合いだからどうこうというものではないけれど、僕でも少し役に立てることがあるかもしれない。
それに、宗治郎さんに会うのは久しぶりだから嬉しさもある。
恋愛として好きだったからではなく、それを抜きにしても人として好きな存在だったから。
……まあ、そんな都合の良いことが起きるわけがないか。
「ここだよ」
エレベーターを降り、村田さんに着いて行くと、彼が話しかけたのは女性だった。
少し後ろを歩いている僕は、村田さんと重なってまだ顔が見えないけれど、宗治郎さんでないことは確かだ。
勝手だけれど少し落ち込んだ気持ちのままで村田さんの横に並ぶと、その女性へと顔を向けた。
「あれ? 楓じゃん」
「……え?」
僕が挨拶をする前に話しかけてきたその女性を見て、思わずかたまってしまった。
「お? 例の知り合いの先輩だった? 運が良いねえ」
「いや……」
知り合いの先輩であることは確かだけれど、彼女を想定していたわけではなかったから、うまく言葉が出てこない。
すっかり忘れていた。ここは宗治郎さんの職場だけではなくて、畠中先輩の職場でもあったんだ。
「知り合いって、何? 村田さんに私のこと話してたの?」
「……いや」
「あはっ、何でそんなにかたまっちゃうの? どうせ私じゃなくて宗ちゃんのことしか考えてなかったんでしょ」
あははと高めの声で笑う畠中先輩を見て、その通りだから何も言い返せないし、モヤモヤと嫌な気持ちが広がっていく。
何も知らない村田さんは、少し戸惑った様子で、僕と畠中先輩を交互に見つめていた。
ともだちにシェアしよう!

