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予報は雨8
畠中先輩との打ち合わせ当日、彼女が僕の会社へとやって来た。
高めのヒールを履いて、カツカツと音を立てて歩いて来る姿を見ていると、それだけで胸がざわついてしまう。
畠中先輩は、「お越しいただきありがとうございます」と挨拶をする村田さんの後ろにいる僕に気づくと、不自然に笑いながら手を振った。
「あ、伝えていませんでしたが、勉強のために望月くんも参加してもらうことになりました」
それを見ていた村田さんが、慌てて僕の参加について説明をする。どうやら畠中先輩に伝えていなかったようだ。
「そうだったんですね。もしかして私のために配慮してくださったんですか? 楓と一緒に仕事ができるなんて、本当に嬉しいです。ありがとうございます」
村田さんに笑顔でそう返した畠中先輩は、僕の目の前までやって来ると、右手を差し出し、握手を求めた。
触れたくはなかったけれど、仕事だし、みんなの前で無視することもできない。
仕方なく手を握り返すと、僕にしか聞こえない声で、「何? 私のこと監視でもする気なの?」と呟いた。
「……え」
「まあ、そのほうが都合良くて助かる。自分から飛び込んで来たんだ? 楓って馬鹿で可愛いね」
やっぱり僕が企画に加わる選択は間違っていたんだと、一気に後悔が押し寄せる。
実際は、参加しなかった場合に何が起きるのかも分からないのだから、選択の間違いがどうこうって話でもないはずなのに。
圧が強い畠中先輩を前にすると、何も言葉を返すことができない。
何のためにこの企画に参加したんだ! と自分を奮い立たせようにも、畠中先輩があまりにも怖く、心臓が騒がしい。
畠中先輩は、何も言わないでかたまっている僕から顔を離すと、「皆さん、混乱させてしまいましたよね? えっと、順を追って伝えさせてくださいね」と、清水さんらに外向きの笑顔を見せた。
「まず、私と一緒に来たのは、同じ部署の岡村 です。私は打ち合わせの前半部分に参加するだけで、以前に伝えた通り、メインは彼が引き継ぎます」
畠中先輩の圧が強すぎたせいで、その後ろに誰かいたことに気づかなかったけれど、背の高い細身の男性がお辞儀をしていた。
雰囲気が穏やかそうで、畠中先輩とは正反対の人に見えた。
この人がメインでやってくれるのなら良かったと、少し気持ちが楽になる。
「それから……」
「うわっ」
油断していた僕の腕を、突然畠中先輩が引っ張った。思わずよろけそうになる僕に、楽が手を伸ばしてくれたけれど、その前に畠中先輩が支え、僕の肩を抱いた。
僕らの距離感に、清水さんが驚く。村田さんは、「そうだった、僕から言っておけば良かったね」と呑気に微笑んでいる。
楽は、警戒した表情で畠中先輩を見ていた。
「楓……って言っちゃまずいかな? でもまあ……、良いよね? 楓と私は大学とサークルが同じだったんだよね」
ぐい、と肩に刺さる爪が痛い。静かに頷くと、彼女が言葉を続けた。
「久しぶりの再会で、とても嬉しいんです。楓に会いたかったから」
「楓くん、そうだったんだ? すごい縁だね」
畠中先輩の言葉に、清水さんが手を合わせて喜んでくれる。
その姿を見た畠中先輩が、さらに僕の肩に爪を食い込ませた。
「……それから清水さん、私はずっとあなたに会いたかったんですよ。まさか、仕事で会えるなんて思っていなかったからびっくり。でもラッキーで嬉しいです」
「……え?」
「宗治郎から聞いてません? 畠中莉乃です。彼の幼なじみの」
さっきまで僕に触れていた畠中先輩は、あっさり僕から離れると、数歩先の清水さんの正面へと立った。
清水さんは少し考えた後で、「畠中莉乃さん……!」と思い出し、嬉しそうな表情を見せる。
清水さんが、畠中先輩の名前を聞いてすぐに気づかなかったことも、彼女は気に入らないようだった。
だって、畠中先輩が一方的に敵視しているだけで、清水さんは畠中先輩の存在を何も気にしていないってことだから。
宗治郎さんも、もしかすると畠中先輩と距離を置いているのかもしれない。
付き合ってしばらく経っているのに、初めましてということは、友人として紹介されたこともないのだろうし。
「ご挨拶が遅れてすみません。私も畠中さんに会えて嬉しいです。お仕事でもどうぞよろしくお願いします」
「知り合いばかりのチームでお仕事できるなんて、私ってツイてますね。それからうちの楓はどうですか? 頑張ってますか?」
高めの声でそう話しながら、畠中先輩はまた、僕へと話を戻した。
その発言に楽が反応し、「……うちの楓って」とぼそりと呟く。
聞こえるか聞こえないか微妙な大きさだったのに、畠中先輩にははっきり聞こえたようで、楽の頭からつま先までをじっと見つめた。
目をつけられてしまう、と僕が焦ったタイミングで、清水さんが口を開く。
「楓くんは本当に良い子ですよ。仕事もできるし、みんなに好かれてます。ね、楽くん?」と笑った。
清水さんには楽の発言も聞こえていなかったし、それに対する畠中先輩の反応も見えていなかったみたいだ。
「……はい。すごく良い先輩です」
楽の口角は上がっているのに、目が一切笑っていない。
「そうなんだ? 楓、良かったね。この企画もそうですけど、これからも楓のことよろしくお願いしますね」
楽に鋭い視線を向けながら、畠中先輩はフッと笑った。
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