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選択のすれ違い1
畠中先輩が参加する打ち合わせは、今日でいよいよ最後になった。今回は彼女の職場で実施した。
仕事は何事もなく終わり、むしろ畠中先輩の仕事が丁寧で驚いたくらいだった。
これから引き継いでいく岡村さんも、何の不安もない人で、仕事に関しては本当にうまく進められていると思う。
でもきっと、これで終わりじゃない。
このビルには宗治郎さんもいるからこそ、何かあるなら今日かもしれないと、さっきから嫌な予感がしている。
「楓さん、大丈夫?」
「……大丈夫、ありがとう」
覗き込む楽に頷いて見せたけれど、心の中は何も大丈夫じゃない。
このまま終わってくれ、頼む……! と何度も祈りながら、1階までエレベーターで降りた。
「それでは今までありがとうございました。この企画から私は離れますが、岡村が引き続き頑張りますので。私も何かあればいつでもサポートいたします」
穏やかに笑っている……ように見せているだけの畠中先輩が、そう言って僕を見つめた。
目を逸らしたら負けだと、僕も畠中先輩に視線を向けた。
「ありがとうございました。私たちのほうも、今後は私と清水のふたりで対応させていただきます。岡村さん、よろしくお願いしますね」
村田さんの発言に驚きながら彼を見ると、こそりと隣にやって来た清水さんが、「急に決めてごめんね。こっちが4人なのは多いし、勉強してもらいたいところはだいたい見てもらえたから良いかなと思って……」と申し訳なさそうに囁いた。
楽も僕と同じように少し驚いていたけれど、清水さんの言うことも最もだ。畠中先輩がいないのなら、そこまで警戒する必要もないから何の問題もない。
結局、僕がこの企画に参加しようがしまいが、仕事においては関係なかったようだ。
打ち合わせの度に、清水さんが嫌な気持ちになるようなこともなく、それだけは本当に良かった。
「すみません……! 別件の対応が入りましたので、私はこちらで失礼いたします。今後ともよろしくお願いします」
これまでのことを頭の中で振り返っていると、岡村さんが慌てた様子で会釈し、急いでエレベーターで上がってしまった。
この後に食事にでも誘われたらどうしようと、そんなことも考えていたから、岡村さんがこうして抜けてくれたことにある意味で感謝した。
「じゃあ私たちも失礼します」
改めて村田さんが頭を下げ、僕たちもそれに続く。
顔を上げ、それから自動ドアを出れば今日は終わる、あと少しだと、そう思っていたけれど、やっぱり嫌な予感は的中したようだ。
畠中先輩が僕を見て、意地悪く笑っている。
「本当は皆さんと食事にでも行けたらと思っていたのですが、申し訳ありません。今回は楓と清水さんだけお借りしても良いですか? どうしても話したいことがあって」
感情がこもっていない笑みを浮かべながら、畠中先輩が言葉を続ける。
「村田さんと十川さんもぜひ、この企画が終わったときには食事に行きましょうね」
畠中先輩は僕の腕を掴み、自分の隣へと誘導した。
「楓は参加するとして、清水さんはどうです? この後に何か予定がありますか?」
行くという返事はしていないのに、僕の参加は決まっているようだ。
これで清水さんが難しいと断ってくれれば良いのに、と祈りながら清水さんを見つめた。
けれど、彼女が返事をする前に聞こえて来た、「沙織! 楓! それから楽くんまで」という聞き慣れた声に、彼女の参加も強制的に決まっていることを知った。
「宗治郎さん……」
最悪だ、メンバーが揃ってしまった。
僕は畠中先輩に何かを仕掛ける宣言をされたとき、僕が宗治郎さんを好きだった過去と清水さんを紹介した理由、それから楽と付き合っていることをバラされることを覚悟していた。
それ以外に隠していることが何もないからだ。
もし本当にそうするつもりであれば、楽が呼ばれなかっただけマシなのかもしれない。
でもそれならどうして、僕が男と付き合っていて都合が良いと言ったのだろうか。
その相手が楽だとバラすのに、本人は必要ないってことなのか……?
「なんだか知り合いが集まって来た感じ……? それじゃあ、私はこの後も予定がありますので、今度こそ失礼しますね。十川くんも行こう」
村田さんが楽の肩を叩き、一緒に出るように促す。楽は何か言いたそうな、不満そうな表情をしていた。
誘われなかったから残るわけにも行かないし、畠中先輩が何かをするつもりだと知らない清水さん、宗治郎さん、そして無関係な村田さんの前で、楽が言えることは何もない。
楽は唇を噛み、眉間に皺を寄せたまま、村田さんの促しに抵抗せずに出て行くことを決めたようだった。
自動ドアから出る前に、何かあったらすぐ連絡してと、スマホをポケットから取り出し、僕に向かってひらひらと動かした。
「宗ちゃんも呼んだの。このメンバーで話してみたかったから。本当はね、十川さんも呼びたかったんだよ。でもさすがに村田さんだけ誘わないのは失礼だからね。今回は十川さんにも帰ってもらおうかなって」
「……何のつもりですか」
「楓、怒ってるの? でもさ、何のつもりかなんて、楓が1番よく分かってるんじゃない? 楓が余計なことをしなければ、私だってこんなこと計画しないよ」
ぜーんぶ、楓のせいだよと、畠中先輩は高い声で笑った。
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