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選択のすれ違い2
「莉乃、最近おかしいぞ」
突然呼ばれた来たであろう宗治郎さんが、畠中先輩を睨む。
宗治郎さんのこんな姿は初めてだ。畠中先輩が好き勝手していた当時だって、こんな表情は見たことがない。
だからこそ、宗治郎さんにとって畠中先輩は大切な存在だろうと思っていたから。
幼なじみという特別な枠にいたはずの彼女に、こういう視線を向けるなんて。もしかして清水さんのことで、色々言われてきたのだろうか。
「宗ちゃんも悪いんだよ」
畠中先輩は、宗治郎さんの怒りをさらに煽りそうな声色と表情を、宗治郎さんに向けた。
それから、くるっと回るように移動し、宗治郎さんの肩に手を回す。
「何をするつもりか分からないけど、楓の顔色が悪いし、楽しい会じゃないなら俺は参加しない。沙織も巻き込むな」
畠中先輩の手を振り払い、宗治郎さんは僕の腕を掴んで引き寄せた。
ぐらりとバランスを崩し、宗治郎さんへともたれかかる。それもあっさりと受け止め、それから宗治郎さんは清水さんの腰に手を回すと、彼女のことも引き寄せた。
「……は? 何それ。うざ」
畠中先輩がチッと舌打ちをする。
さっきまで、表面上は穏やかに打ち合わせをしていたから、清水さんもその姿に驚いたようで表情が強張ってきた。
宗治郎さんが本当に清水さんとのことで何か言われているのであれば、集められた理由に対して彼なりに予想していることがあると思う。
清水さんとのこれからを、畠中先輩が良く思っておらず妨害しようとしている、みたいな。
でも清水さんは、畠中先輩と顔を合わせたときも、名前を聞いた直後の様子を見ても、宗治郎さんから積極的に畠中先輩の話を聞いているとは思えなかった。
だからこそ、これから何が起きるのか不安な気持ちが強いだろう。
「でも楓を気にする気持ちは変わらないんだ? だったらなおさら、今日は私に従ったほうが良いよ」
どういうことだ? と宗治郎さんの眉毛が動く。
「清水さんも、仕事のことは抜きにしてさ、知っておくべき事実があるからぜひ参加してくださいね。宗ちゃんと家族になるんでしょ?」
宗治郎さんに拒否された畠中先輩は、今度は清水さんの手を握り、左右に揺らした。
振り払えずかたまったままの清水さんが、眉を垂らし、唇を噛み締める。
知っておくべき事実とは、きっと僕が利用した話に違いないけれど、もしかしてそれだけではないのだろうか。
確かに僕のためにふたりを巻き込んだものの、それはあくまでも僕の責任で、ふたりが決めた結婚には直接関係しないのでは?
「畠中先輩、僕がしてきたことを伝えるだけなら、こんなに大事にしなくたって、僕からきちんと説明します!」
想像していないことまで考えなければならないことがストレスで、僕は思わず声を上げた。
「楓?」
宗治郎さんが、何を言い出すのかと心配そうに僕を見つめる。
「宗治郎さんに清水さんを紹介した理由のうち、まだ伝えきれていない部分を言えば良いんでしょう? それで満足ですか?」
「満足? するわけないでしよ」
吐きそうになりながら伝えた言葉は、特に何の力も持てないまま畠中先輩に跳ね返された。
宗治郎さんも何の事かわからず気にしているだろうに、「何か分からないけど、莉乃に付き合わなくて良い」と僕の手を握った。
その手の温かさに、涙が出そうになる。
こんな場面でも僕の味方をしてくれる彼を、とんでもないことに巻き込んでしまった。
「楓、あんた勘違いしているけど、あんたの事情だけだと弱いの。もっと伝えないといけないことがあるから」
「莉乃、いい加減にしろよ」
「宗ちゃんもうるさすぎる。そもそもここで大声で言われるより、誰の知り合いもいない店にでも行って、1時間くらい私に付き合うほうが良くない?」
夕食の時間にちょうどいいよと、畠中先輩は腕時計で時間を確認しながら笑った。
「宗ちゃん、ここは宗ちゃんの職場だよ? これから清水さんとハッピーな家庭を築いていくのに、職場で気まずくなるのは避けたいんじゃない? 帰宅する人がこれからどんどん出てくるよ」
良いのかな〜? と言いながら、畠中先輩が僕たちの顔を覗き込むように近づいたとき、「俺も参加して良いですか……っ」と息を切らした楽が自動ドアのところにいた。
「なん、で……!」
一瞬だけ、楽の顔を見ることができた嬉しさ、駆けつけてくれた嬉しさを感じたけれど、すぐに現実に引き戻された。
「あーあ、自ら飛び込んで来る馬鹿がここにもいた。楓そっくり。十川さん、楓のヒーローになれると良いね。参加はご自由にどうぞ」
畠中先輩は鼻で笑い、手を叩いた。
畠中先輩は何も取り繕う気がないようだ。清水さんの前でも楽の前でも、嫌な部分を隠さず全面に出しているからこそ、彼女がどれたけ本気なのかが伝わる。
「楓さん……!」
すぐに駆け寄った楽が、僕を支えるようにして横に立った。
全員が揃ってしまった。もう逃げられない。
これから起きることを考えるだけで、冷や汗が止まらないし、胸が苦しくなる。
楽が来てくれた瞬間の安堵は大きかったし、嬉しくもあったけれど、それは傷つく人が増えるということでもあるから、気持ちは複雑だった。
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