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選択のすれ違い3
不穏な空気の中、畠中先輩に言われるがままに店へと移動した。
てっきり多少騒いでも迷惑にならないような店にするのだろうと思っていたけれど、畠中先輩が選んだ店は、広い室内にテーブル席は少なめでゆとりがあり、静かな雰囲気だった。
誰かが感情的になれば目立ってしまう、そういう空気感で、だからこそ目の前のことから絶対に逃げられない緊張があった。
「飲み物は適当に頼むね。みんなお酒大丈夫でしょ?」
畠中先輩はスタッフを呼ぶと、ワインを注文していた。お酒を楽しむ余裕は誰もないのに、ナッツ類やチーズまで追加する。
「せっかく来たのに? 楽しまないの?」
「楽しめない空気感にしたのは莉乃だろ」
おいしいお酒があるのに? とひとりだけ笑っている畠中先輩に、宗治郎さんが視線も合わせずに返した。
座席はソファ席で、2人掛けが2つあったところに、1人用のソファを追加してもらった。
畠中先輩に1人用に座ってもらい、残りは宗治郎さんと清水さん、僕と楽のペアで座っていた。
畠中先輩が中心にいるせいで、そこからの圧が強い。
けれど、清水さんは何か覚悟を決めたようで、もう不安そうな顔はしていなかった。
何かあったら僕や楽のことを守るよ、とでも言うような表情で僕たちのほうへ視線を向けていた。
「いきなりメインの話をするのはもったいないから、宗ちゃんの話でもしようかな」
ワインが運ばれてくると、畠中先輩は香りを楽しみ、少しだけ口に含んだ。
「私と宗ちゃんは幼なじみってことは、みんなもう知っているよね? 少女漫画で見るような関係だったの。家も近くて、親同士も仲が良くて、大きくなったら結婚しようねって、そんな話もしたことがあるし」
ね? と、畠中先輩が宗治郎さんに同意を求めたけれど、彼は何も答えず、ただ苛立ちを募らせているようだった。
畠中先輩は、宗治郎さんとの幼少期の思い出や、中学と高校のエピソードを20分近く語り続け、そこには“私しか知り得ない特別な情報”を、ひけらかしたい気持ちが滲んでいた。
清水さんは、表情を変えることなく静かに聞いている。
僕でも耐えられないこの話をいったいどんな気持ちで聞いているのかと心配になりながら、僕は彼女を見ていた。
ようやく話題は大学時代へと進み、今度は僕が宗治郎さんと仲良くしていた話を始めた。
畠中先輩のフィルターを通した話になるから、実際の僕と宗治郎さんの関係よりも誇張された内容だった。
僕がどれだけ宗治郎さんに懐いていたか、それに宗治郎さんがどれだけ優しく対応を返していたか、ひたすらにその話が続く。
僕が宗治郎さんを好きだったことを、この場で畠中先輩以外に、楽しか知らない。
楽も昔の僕の好きな人の話をされても良い気がしないだろうと、楽のことが気になる。
それにこの話が出たということは、いよいよ本題へ近づいていると自覚し苦しくなった。
「楓が宗ちゃん懐いていたのは、ただ先輩として好きだったからじゃないよね。ね? 楓」
さっきまで一方的に語っていた畠中先輩が、突然僕へと視線を向け、絶対に逃さないというような表情をしていた。
いよいよ始まると、身体が強張る。そんな僕を見て、隣の楽も何かを察したようで、背筋を伸ばした。
「恋愛的な意味で、宗ちゃんのことが好きだったでしょ?」
「……っ」
ここまで来て誤魔化すことはできないけれど、「はい、好きでした」とすんなり答えられるほどのエネルギーもない。
何も言えずに黙っていると、畠中先輩は僕の答えを待たずに、「宗ちゃんも」と言葉を続けた。
「宗ちゃんも、楓が好きだったよね。恋愛感情があったよね」
「……え?」
畠中先輩の言葉に、それまでとは違う形で場の空気が凍った。
僕が宗治郎さんを好きだったことは楽も知っているし、清水さんだって僕が楽と付き合っていることを知っている。
だからこそ、その前も男性が好きでそれが宗治郎さんだったことくらいでは、そこまで驚かなかったはずだ。
これだけのプレッシャーの中で集められて、何かに巻き込まれる覚悟があっただろうし、僕が宗治郎さんをどう思っていたかで、清水さんは心が揺さぶられる人ではない。
けれど、宗治郎さんが僕を好きだったという事実は、この場の誰も予想できなかったことだ。
そうだったのかという驚きや喜びはなく、混乱しかない。
僕の周りだけ空気が薄いのでは? と思うくらいに、息がしにくくなった。
……楽は、どう思ってる?
「楓も宗ちゃんも馬鹿みたい。ねえ、清水さんも十川さんもそう思わない? さっきからどう? ふたりとも否定しないんだよ? そんなことないって言えないの。だったら、好きだったってことじゃん」
畠中先輩は清水さんと楽に共感を求めるように、前のめりになりながら話し始めた。
僕は誰の顔も見ることができなくなり、俯いて膝を掴むように手を握りしめた。
僕が否定も肯定もしなかった結果、それを肯定と受け止められるのはその通りだから、そのことに対して反論できることはない。
でも、宗治郎さんが何の反応もないのは、本当に肯定の意味なの?
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