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選択のすれ違い4
……宗治郎さんは、あのとき、僕のことが好きだったの?
僕が宗治郎さんに、試したりせず、まっすぐに愛情をかけてくれ、その人が笑うと思わずこちらも笑い返したくなるような、そんな温かい人と結ばれてほしいと話をしたときに、「楓みたいな子だったら」と言ってくれたのは、宗治郎さんの本心だった?
冗談でもなく、本気で僕のことが好きだったから……?
「お互い好きだったのに! 私から見てバレバレだったのに! くっつくこともしないで、それぞれで気持ちを温め続けて。馬鹿じゃないの?」
畠中先輩の声が大きくなり、静かな店内に響いた。
僕たちの他にお客さんが誰もいないことが救いだ。
僕が過剰に受け取りすぎているせいで、実際はそこまでの声量ではないのかもしれないけれど。
てっきり、僕に取り乱さずに最後まで責任を果たさせるつもりで、畠中先輩はあえて静かな場所を選んだと思っていたけれど、今の彼女を見ていると、そういうことではなかったんだなと感じた。
「楓なんかもっと馬鹿で、宗ちゃんのことを諦めるために清水さんを紹介してさ。宗ちゃんも楓を諦めるために、清水さんを利用したんでしょ?」
畠中先輩の言葉に、思わずイラッとしてしまい、俯いていた顔を上げた。
「別に誰でも良くて清水さんのことを紹介したわけじゃない……! 結果として利用してしまった事実は変えられないけれど、僕は人として、宗治郎さんのことも清水さんのことも大好きで、だから……っ」
ただ、きちんと違うところは違うと言い返したいのに、うまく言葉が出てこない。混乱して、どうしたら良いのか分からない。
ああ、落ち着いた状態で僕の気持ちを聞いてもらいたい。僕のための選択だったけれど、ふたりをお似合いだと思ったことも、ふたりに幸せになってほしいと思ったことも事実なのに。
でも、そもそもこう思うことが自分本位だし、許されないのかもしれない。
「……うるさい! 楓は黙ってて!」
これまで畠中先輩には余裕しかないと思っていたのに、鼻声で、いつもより何倍も早口で、こんな彼女は見たことがない。
「諦めて終われば良いのに。宗ちゃんは利用した女と同棲を始めて、あげく結婚するって言うんだもん。びっくりだわ。それって楓への当てつけ? あんたたち何がしたいの?」
「莉乃、お前の言ってることはめちゃくちゃだ。見えている部分だけで解釈するなよ」
「はあ? だいたい楓だって、清水さんを利用してまで宗ちゃんのこと諦めたくせに、あっさり十川さんに乗り換えてるし。清水さんを利用するだけじゃ足りずに、近場の男を利用したんでしょ? めちゃくちゃなのは、宗ちゃんと楓でしょ!」
宗治郎さんも、畠中先輩に対して言葉を返したけれど、彼女は当たり前にそれを受け入れることなく、さらに苛立ったように見えた。
僕も何か言わなければと思うけれど、相変わらず言葉が出てこない。
楽には以前、お互いどうして好きになったのかを伝えた合ったことがあるから、楽が畠中先輩と同じ考えを持っているとは思わない。
それでも、隣の楽の顔を見ることができない。
「私は、楓が大嫌いだった! 宗ちゃんがあんなに誰かを好きになって優しい目をしていたのは、初めてだったから! 楓だって、誰が見ても分かる目で宗ちゃんのことを見つめてた!」
とうとう泣き出した畠中先輩は、隣のソファに座っている宗治郎さんの服の袖を掴んだ。
「馬鹿じゃないの? ってイライラした。私だってずっと宗ちゃんのことが好きだったし、一時期は宗ちゃんだって、莉乃が俺の相手なのかなって、それでも良いのかなって、思った時期もあったでしょ?」
そうだよね、と同意を求めるように宗治郎さんを見るけれど、彼は頷くことはなく、ただ冷めた目で畠中先輩を見ていた。
けれど、畠中先輩の言葉は間違いではないからこそ、僕も複雑な気持ちになる。
宗治郎さんにとって、畠中先輩との未来を考えたタイミングがあったのは確かだ。それを僕が否定したんだ。
「私は宗ちゃんと付き合ったとして、別れて終わりたくなかったし、ずっとタイミングを大切にしてたの。いつでも手に入るからって、余裕で隣にいたんじゃない。ずっとずっと待ってた。でも好きな相手が楓で、男だったから、じゃあ今は私じゃダメなんだって、でも楓が気に入らないって葛藤してたよ」
一方的に話し続ける畠中先輩を止めることができない。
どんな言葉をかけようとも、彼女は言いたいことを伝え切るまでは、自分でもその衝動を止められないのだろう。
ぼろぼろと大粒の涙を流しながら、それでも泣いて何を言っているのか分からない、ということはなく、伝わるようにはっきりと話し続ける彼女に強さを感じた。
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