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選択のすれ違い5
「なのに、どうして? ポッと出の女と同棲までしてんの? 結婚の話を出してんの? 結局女で良かったの? じゃあ私でも良かったじゃん! こんなつもりで、楓が宗ちゃんに紹介しようとしてるときに、後押ししたんじゃない!」
畠中先輩は宗治郎さんの袖をさらに引っ張った。
けれど、宗治郎さんは止めることなく好きにさせている。
「宗ちゃんは、楓は男の俺なんて好きになってくれないって思ってたのかもしれないけど、宗ちゃんの次に選んだのも男だったよ。宗ちゃんみたいに、好きになった人がたまたま男だった、とかじゃないんだよ。楓はゲイなんだから」
畠中先輩が、次から次に溢れ出る涙を手の甲で拭う姿が小さく見える。
「宗ちゃんも楓も、人生の選択をミスしたね。妥協した相手で、満足? 本当にその人のこと好きなの? 利用して、妥協して、お前らまじで馬鹿だよ……!」
畠中先輩なりに思うことは色々あるのだろうけれど、結局彼女の言いたいことはそれなんだろう。
僕の行動が発端ではあるけれど、僕も、そして宗治郎さんも、それぞれの相手を大切にしていることが伝わらない。
でも、畠中先輩も、そう思わなければ、自分の中の感情をどう処理したら良いか分からないんだろうな。
「私は……っ! 宗ちゃんが大好きなの……! 宗ちゃんじゃなきゃ、ダメなの。清水さん、返してよ……! こんな男いらないって、私のこと利用したんでしょって、そう言って私に返してよ! 宗ちゃんが好きなの、愛してるの……!」
宗治郎さんに抱きつくようにして、とうとう泣き崩れてしまった畠中先輩を見ていると、隣の楽に手を握られた。
「……っ、」
楽の手が震えている。
僕は逃げていてはダメだと、自分の気持ちの整理ばかりではなく、僕のために駆けつけてくれた楽のケアをしなければ。
そう思ってようやく彼へと視線を向けた。
「楽……」
楽の目には何の光もなく、頬には涙の痕ができていた。
この話がされていた長い時間、楽は僕が思っているよりも、酷く苦しんでいたんだ。
「楽……、ごめん、びっくりさせて。僕は自分のことばっかりで、この話を聞いてる楽のこと、何も考えてあげられなかった、ごめんね」
握られた手を握り返し、それからもう片方の手も重ねた。
楽は何も言わずにまた涙を流し、それから唇を震わせた。
「俺は、楓さんも清水さんも大好きだけど、何より大切なのは、当たり前に楓さんです」
「……うん」
僕のほうに顔だけ向け、楽は眉を垂らし、悲しげに微笑んだ。
「だから、楓さんがあれだけ大好きだった宗治郎さんも、楓さんのことが大好きだって言うなら、俺は身を引きます。楓さんには、幸せでいてほしいから。……まだ間に合いますよ」
「……楽、何言って……。ねえ、楽……!」
僕にしか聞こえないくらいの声でそう言うと、楽は握っていた手を離した。
咄嗟に握り直した僕の手を、やんわりと拒否し、それから立ち上がり、清水さんらに頭を下げると、その場を立ち去ってしまった。
何が起きたか何となく整理できた頃には、楽の姿はなく、僕は慌てて立ち上がると追いかけようと数歩進んだところで、力が抜け足が動かなくなった。
「どうしよう……」
追いかけようとしても足は動かないし、そもそも追いかけて何を話せば良いのか分からない。
僕が好きなのは楽だよと伝えたとして、この何も解決していない状況で、楽が信じられるものがあるのだろうか。
今は何を話しても彼の気持ちは変わらないかもしれない。それに、話すこと自体が、楽にとって苦痛になってしまう。
楽も、気持ちを整理したいだろうし、僕が色々考えて動くこと全てが、迷惑になってしまうかも。
「……うう、」
それなら、まずはここできちんと決着をつけ、楽が思っている通りにはならないこと、僕がどれだけ楽のことが好きなのかを分かってもらえるように頑張るしかない。
……でも、どうすれば良いの? 全部ぐちゃぐちゃになったのに。
僕が、選択を間違ったんだ……。
「……楓くん」
いつの間にか、僕の後ろには清水さんがいて、立ち尽くす僕の手をが握ってくれた。
頭の中がめちゃくちゃなまま、ゆっくりと清水さんのほうを振り返ると、優しく僕の手を引き、ソファへと誘導した。
「……宗くんも、畠中さんも、私の話を聞いて」
清水さんは、泣き崩れている畠中先輩を支えながら立ち上がらせると、僕同様にソファへ座るよう促した。
畠中先輩は相変わらず泣いているけれど、清水さんの手を振り払うこともなく従っている。
ただ、「宗くん」という呼び名に対してだけ、ぴくりと反応したように見えた。
こういう些細なところからも、宗治郎さんと清水さんの距離が縮まっていることに気付かされるからだろう。
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