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選択のすれ違い7
「畠中先輩の言う通りで、僕は宗治郎さんのことが大好きでした。……たまらなく、好きでした」
僕は畠中先輩が蹲って泣き続けている横で、宗治郎さんに向き合い、そう話した。
全てを正直に伝えて、しっかり区切りをつけて終わらせなければならない。
「……でも僕は男だし、宗治郎さんにその気持ちを伝える勇気はなかった。結ばれないと分かっていたから、気持ちを整理するために清水さんを紹介したのは事実です」
清水さんや宗治郎さんが、どんな表情をしているのかを確認することは、少し怖くもあった。
けれど、その怖さも僕の勝手が招いたことだから逃げてはいけない。
そう思いながら自分の手を握り、強く力を込めた。
「それを、畠中先輩の言う通り、利用されたと思われても仕方がないと思います。否定しません」
ふたりの瞳の輪郭が揺らぐ。僕も視界を滲ませながらも、自分なりにはっきりと言葉を繋いだ。
「……でも、宗治郎さんのことが大好きだったから、僕の大好きな清水さんと結ばれたら良いなと思った気持ちは本心です。ふたりとも素敵な人だから、相性が良いはずだと思ったし、同時に、幸せなふたりを見れば、諦めがつくとも思いました。やっぱり僕じゃなかったと思えたほうが、諦められると思ったから」
当時の僕は、ここまでの話をふたりにすることになるとは思っていなかった。
だからこそ、どう伝えれば良いのか迷いながらではあるけれど、それでもこうして言葉にすることで、これまでの自分を振り返ることができて不思議な感覚になる。
「……当時の僕は、新たな恋を始めることで、宗治郎さんへの気持ちを上書きできる自信はありませんでした。気持ちを伝えられなかったことを後悔もしたし、もし伝えていたらと、そんなたられば話を考えたこともあります。でも今は、これで良かったと思います。ふたりの幸せな姿を見られたことも、僕が楽に出会えたことも」
さっきまであった声の震えが、ようやく止まった。楽との日々を思い返し、それが僕の支えになっている。
この瞬間さえも、楽に助けられているんだ。
「勝手かもしれませんが、今は、楽と日々を過ごせることが嬉しいんです。宗治郎さんへの思いも大切だったけれど、それは今も温め続けている気持ちではありません」
宗治郎さん、清水さん、それから畠中先輩を交互に見つめた。
僕の話を聞いてくれていたのか、畠中先輩は、さっきよりも顔を上げてくれている。
「あのとき、あれほど誰かを好きになれた経験ができて良かった、それが宗治郎さんで良かったと、そう思うだけです。これからも、そういう事実としてだけ、大切にしていきたいと思っています」
畠中先輩の頬を、大粒の涙が伝った。
しばらく黙っていた宗治郎さんが、ゆっくりと立ち上がり、僕の正面に膝をついて触った。
そっと伸ばされた手は、僕の肩に優しく触れる。その手が微かに震えているように思えた。
「……俺も、楓のことが大好きだった。俺にとっては可愛くて、大切にしたい存在だった。結局思いを伝えることはできなかったけれど、そういう縁だったと思っている」
宗治郎さんに視線を合わせ頷くと、彼が穏やかに笑った。
「今、楓に対して恋愛感情はないけれど、人として好きなことは変わりない。これからも、友人として、仲良くしてもらえたら嬉しい」
はい、と返事をすると、それを見ていた清水さんもホッとしたように微笑んだ。
「沙織のことを知って、こんなに素敵な人と俺のことをお似合いだと思ってくれていたと分かって、それも嬉しかった。あのとき楓に気持ちを伝えなかったことを、後悔しなかったといえば嘘になる。でも、伝えなかったからこそこうして沙織と出会えたと思う。楓には感謝しかないよ」
「私も、今日の出来事があったからと言って、宗くんへの気持ちも、楓くんへの気持ちも何も変わらないよ。それに、紹介されて実際に会うことを決めたのも、彼を知りたいと思ったのも、知ったうえでこれからも人生を共にしたいと思ったのも、全部私が決めたことだよ」
清水さんの言葉に、少しだけ胸が軽くなった。僕には強制力はなくて、宗治郎さんや清水さんに選択肢を渡しただけだったのか。
確かに僕はある意味でふたりを利用する選択をしたけれど、その先でどうするかは、宗治郎さんと清水さんの選択だ。
僕はそこから先のふたりに、何か影響を与えられるわけではないんだ。
「楓くんは、あくまでもきっかけをくれただけ。私は私の考えと気持ちだけで、彼を選んだ。大丈夫だよ、楓くんをネガティブに思うことは何もないよ」
僕がたった今思っていたことを知っているかのように言葉を重ねた清水さんに、思わず微笑んだ。
ふと、視線をずらすと、僕を見ている畠中先輩と目が合った。
気まずそうにすぐに下を向いた畠中先輩のほうへ移動すると、顔は見ないままで隣に座った。
「……畠中先輩、これが僕の気持ちです。それから宗治郎さんの気持ちも。理解してほしいとは思わないけれど、見えていた部分が全てではないと、それは分かってほしいなと思います」
膝を抱えるようにして座り直した畠中先輩が、とても小さく見えた。
「畠中先輩の言葉に動揺したことは事実だし、自分のしたことに後悔がなかったわけでもなかったからこそ、ある意味このような機会をいただけて良かったのかもと、今ではそう思います。でもお礼は言いません」
僕が全ての気持ちを伝え終わると、宗治郎さんは畠中先輩の正面で膝をつくように座った。
「莉乃をここまで追い込んだのは、俺が悪かったからだよな、ごめんな。しばらくはお互いに距離を置いて、落ち着いたらまた、莉乃が良ければ友人に、……幼なじみに戻ろう。俺が言えることも、できることも、それくらいしかないけど」
「……ごめんなさ、い。ごめ……ん、なさ……い」
肩を震わせながら、何度も何度も謝る畠中先輩は、今までの彼女から信じられないほど小さく見えた。
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