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第5話 なんかちょっと違うんだけど

「まあ、恋人はちょっと話が飛躍しすぎた。それはおいおい考えるとして、ソウが困っていることや、つらいことを教えて」 タバトさんに言われて、俺は、さっきの「俺でもいいの?」の詳細を聞きたくてたまらなかったんだけれども、でもいったんタバトさんに合わせることにした。 俺は横に座っているタバトさんの顔を見あげた。もともとの前提が違いすぎるこの世界の人にどれだけ分かってもらえるのだろうか。万が一分かってもらえたとしても、どうすることもできないことが多すぎると思う。 でもタバトさんは真剣な顔で俺を見ている。本気で何とかしようとしてくれている。俺のことを諦めるつもりなんて全然ないみたいだ。 俺はその様子に勇気づけられて、なんとか説明しようと思った。 「ええとね、ここでは人と人とのやりとりがたくさんあるよね。いろんな人と直接会って話したり、一緒に遊んだり」 「うん」 「ええと、向こうの世界でもね、人と人とのやりとりがたくさんあってね。俺はそれが好きだったし、楽しかったし、ないと退屈なんだけれどもね」 「うん」 「あの、向こうの世界は直接会うわけじゃなくてね、ええとなんていうか機械があってね。その機械に文字を書いて、遠くにいる相手も機械に文字を書いて、それでやりとりをしたりできるんだ。あと別の機械だとね、音だけ伝えるやつがあって、それでしゃべると遠くにいる人としゃべったりできるわけ」 「う、うん?う、うん」 「機械を使って遊べる遊びがあるんだけど、同じ機械があったら遠くにいる人とも一緒に遊べて、おしゃべりもできるのね。それが楽しくて好きだったんだけど、ここの世界にはそういうのがないから」 タバトさんは真剣に考えているようだった。 「ソウの世界では、機械で手紙のやりとりをしたり、機械を使って遠くの人としゃべったりできて、同じ機械を持っている遠くの人と一緒に遊べる」 タバトさんが呟いた言葉に頷いた。 「遠くの人としゃべらないとだめなの?ここでも直接人と会えばいくらでもしゃべれるよ。機械がなくても一緒に遊べるよ」 うん。そうだよね。そう思うよね。 「ええとね。俺は人としゃべったり遊んだりしないとさみしいし退屈なんだけども、直接人と会うのは疲れるんだ。疲れることもあるの。あ、タバトさんやフランツ君はあんまり疲れないよ」 「あんまり?」 「うん。ごめん。あの、異世界人は1人で過ごす時間が必要なんだ。1人っきりでいたいわけ」 「でも1人だとさみしいんでしょ?」 「そう。だから、機械を使って間接的にね、やりとりするわけ。そしたら人とのやりとりができるし、1人でいられるでしょ?」 「分かった気がする。つまりソウは人といると疲れるのに、1人でいたらさみしいんだね。でソウの世界にはその矛盾を解消するための機械がある」 タバトさんは言いながら、難しそうな顔をした。 うん。そういうこと。 わかってくれて嬉しいけれども、でもそういうことだから、どうにもならないでしょ? 「元の世界はね、直接会わなくても何でもできたの。歌ってみたとか弾いてみたとかね。楽器を演奏して歌を歌って、それを機械で人に見せるとね、その場にいない人たちに歌を聴いてもらえて、いいねを、ええと、上手だねとかそういう感想をもらえるの」 「楽器?ソウは楽器が弾けるのか?」 「うん。エレキギターって言ってね、弦が張ってあって、こうやって弾くんだけど」 エアギターで演奏してみせた。 「楽器は作れるよ!。ソウが言う機械は作れないと思う。申し訳ないけど。中身がどうなっているのか全然分からないし」 うん。ごめん。それは俺にも全然分からない。現代日本人のほとんどが、スマホの中身もパソコンの中身も全く理解できていないと思う。ごめん。 「でも、楽器は作れるよ。弦楽器もある。バイオリンとかハープとか。だから楽器職人のところに行って、ソウが説明したら同じものが作れると思う!」 タバトさんが興奮している。俺の話の中で唯一なんとかなりそうなことが見つかって喜んでいるのだろう。 でも、エレキギターは電気がいるんだよ。 俺はそう思って、でもすぐに思い直した。 エレキギターじゃなくてもいいかもしれない。アコースティックギターを作ってもらえたら、それを弾いて歌を歌って、また楽しめるかもしれない。 俺はたまにエレキギターを持ってカラオケボックスに行って、演奏を録音してYouTubeにアップしていた。全然人気なんてなかったし、自分で作詞も作曲もしないから、そのとき好きな曲を演奏するだけだったけど、結構楽しかった。 ギターがあったら、嬉しいかもしれない。 「じゃあ、ギター欲しいかも」 「作ろう!!王都一の楽器職人がいるから、その人に頼んで作ってもらおう」 タバトさんの顔は喜びに溢れていた。顔を紅潮させて目はきらきらと輝いている。 俺はこんなに親身になってくれるタバトさんの優しさが、嬉しくてたまらなかった。 もう閉じこもるのはやめて、タバトさんにもっと色々相談して、できるだけ楽しく過ごせるように頑張ろう。 異世界人が豊穣を司るのなら、俺の幸せがこの国の平和と豊作に関わってくるんだし。 「それにさ、機械はないけど、手紙はあるよっ。ソウ!話したいけど人と会いたくない時には、手紙のやりとりをすればいいんじゃないの?」 タバトさんは俺のためにできることがようやくわかったと言って、ものすごく張り切ってくれた。 俺の気持ちは速やかにフランツ君と街の人に伝えられ、俺は紙の束を渡されて、直接話したくないけれども人と話したい時には、紙に書いて渡すことになった。そうすると相手も紙に書いて渡してくれる。 若い人や子どもたちがなぜかそのやりとりを結構面白がって、目の前にいるのに、手紙を書いてくれて、その場で手紙を返してと、まるで筆談のようなやりとりをすることになった。 俺が言っていたこととは全然違うし、SNSのやり取りとは全然違うけれども、これを街の人たちは異世界流と呼んで流行らせてしまった。 どうも俺がいないところでも、この異世界流コミュニーケーションを行っているらしくて、人々が手紙やメモでやりとりをすることが増えて、結果として文字が苦手な人たちが減ったとか、読み書きができない子どもたちが教会の日曜学校に通うようになったとかで、最終的には俺が市長さんにお礼を言われることになった。 俺は元いた世界の何かを取り戻せたわけでは全然ないけれども、この異世界の人たちとこの世界のことがけっこう好きになった。

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