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第9話 異世界流の歌ってみた
ストラディさんにギターを作ってもらって、それで、たくさん作って王都で流行らせてもいいか聞かれて、俺はもちろん頷いた。
あんなに頑張って作ってくれたんだから、ギターをたくさん売ってストラディさんが儲かってくれたら嬉しいし、それにもしギターが流行ったら、俺もまた人のギターを聴けるようになる。
俺はギターを演奏したかったけれども、人の演奏も聴きたかった。だから工房にいる若者数人とストラディさんにギターの演奏の仕方を教えてきた。
ギターだけあっても、教えられる人がいないと困るもんね。
それでギターをもらってきて、家に帰って、一人で演奏した。元いた世界でよく弾いて歌っていた曲を思い出せる限り弾いた。歌いながら弾くと心の中が音楽でいっぱいになって、嬉しくてたまらなかった。
いつまでもいつまでも弾いていられる。
俺は時間を忘れて演奏し続けた。自分が異世界にいることを忘れて、元いた世界のことも忘れて、ただひたすら音楽を楽しんだ。
トントンとドアをノックする音がして、俺は現実に引き戻された。異世界人の家のドアはノックせずに開けてはいけないということは、ちゃんとこの世界に広まっている。
けれども、ガンガンという力任せのノックではなく、コンコンとやってくれるのはフランツ君とタバトさんだけだ。
窓の外をみると太陽がだいぶ傾いているようだった。
きっとフランツ君だろう。
俺がドアを開けると、フランツ君が困ったような顔をして立っていた。
「どうしたの?」
「あの、ソーさん、外、知ってます?」
何を?
フランツ君の横から顔を出して外を見て、俺は驚いた。
隣の家までの空き地や道にたくさんの人がいて、その場に座ったり、椅子に座ったり、立ったりしながら、全員がこちらを向いていたのだ。
今まで俺の家は異世界人の家として、街の人たちに知られてはいたけれど、珍しい異世界人を見に来よう、みたいな人は一人も来たことがなくて、俺は安心して暮らしていたんだけれども。
俺は困惑して立ち尽くしていると、人の山からタバトさんが出てきてくれた。
「ソウ、ごめん。驚いたね。ソウのギターの演奏と歌が外に聞こえて来て、みんな聞きたくて集まって来ちゃったんだ」
街の人たちははじめはにこにこしていたけれども、俺があまりにびっくりしたせいか、ちょっと心配そうな顔をさせてしまった。
でも、そうか。
みんな聞きたいんだ。
「俺の演奏、どうだった?」
「素晴らしいよ。こんなすてきな音楽聴いたことないよ。歌もとても上手だ」
タバトさんが力を込めて言うと、街の人たちはそれぞれ頷いたり、そうだそうだと言ったり、素敵、上手っ、もっと聞きたい。と口々に言い始めた。
「ソウが疲れるといけないから」
タバトさんが言うと、すっとみんな黙ってくれた。そしてタバトさんとフランツ君が声をかけてみんなを解散させてくれた。
ああ、びっくりした。
俺は部屋に入るとソファに座り込んだ。
演奏疲れもあった。
フランツ君とタバトさんが心配そうにこちらを見ている。
そうか。
俺のギターは元いた世界では別にすごく上手ってわけではなかったし、歌もおんなじ。歌ってみただってそんなに人気がなくて、いつも感想をくれる人がちょっといたけれども、人気の歌い手でも何でもなかった。
だけど、この世界にはギターを弾ける人が俺しかいないし、異世界の歌を歌う人も俺しかいないから、誰かと比べて上手いとか下手とかそんなの関係ないんだ。
ただみんな俺のギターと歌が聴けたら嬉しいって思ってくれてる。
「俺、歌ってみたをやってみたいな」
言うと、タバトさんが力強く頷いてくれた。
自分は一人で楽器の演奏をしたり歌ったりして、それを機械で遠くの人に見せる。それで聴いてくれた人が、上手だね、みたいな反応をしてくれる。
多分俺は歌ってみたのことをそう説明したと思う。それを聞いたタバトさんが考えた方法は、広場の中央にカーテンで囲った場所を作り、そこで俺が演奏するというものだった。
そして音楽が良かったら、そこで俺宛に手紙を書いて、それで俺を囲っているカーテンの近くに置いた箱に手紙やお金を入れてくれるらしい。
俺は歌ってみたで投げ銭なんてもらってなかったから、お金の話はしなかったはずだけれども、この世界にも旅芸人や流しの演奏家みたいな人たちがいて、その人たちは演奏しているところの前に箱やひっくり返した帽子なんかを置いてお金をもらっているらしくて、俺の歌ってみたもそれに合わせたみたいだった。
正直、そのカーテンの中に入るところと出るところを演奏を聴きに来てくれた人たち全員に見られるわけだから、演奏だけをカーテンで隠す意味があるんだろうかと、首をひねった。
それに音がこもりそうだから、慣れてきたらカーテンは外してもらおうと思ったけれども、せっかくタバトさんが考えてくれたから、俺はとりあえずカーテンの中で、演奏することにした。
コンサートじゃないから、司会とかもなくて、好きなタイミングで演奏していい。
聴きに来た人も、いつ来てもよくていつ帰ってもいい。
あ、途中で帰る人がたくさんいたら、ちょっとショックを受けるから、やっぱりカーテンがあってよかった。
そんなことを思いながら、俺はカーテンで囲まれた場所に置かれた椅子に座って、ギターの音をいくつか鳴らした。
うん。いい音。
俺は演奏し始めた。
俺のオリジナルソングはないから、元いた世界の曲を演奏することになる。
俺は、これらは人が作った曲だから著作権がね、と説明しようとして、タバトさんが首をかしげるのをみて、説明は断念した。
盗作というか、他の人が作った曲を自分のものみたいに演奏するのは良くないって思ったけど、そもそも著作権という考え方そのものが通じなかったから、俺は理解してもらうのを諦めた。
とりあえず、演奏して歌っているのは俺だけど、曲を作ったのも歌詞を書いたのも俺ではない。ということは街の人には伝えてもらったし、今後も演奏するたびに伝えていけば、俺以外の誰も気にしていない著作権侵害という事柄を、俺も気にしないで良くなる気がする。
俺は元の世界で好きだった曲を演奏した。転移する直前に流行っていた曲や、俺が好きでよく聴いていた、俺が生まれる前やまだ子どもの頃に流行っていた曲も。
90年代のポップスが好きで、歌ってみたで投稿するのはいつもその頃の曲だった。
感想の半分くらいは、「ナツイw」だったけど、若い人たちも聞いてくれて、そこから本物の曲を聴きに行ってくれてその曲のファンが増えたりして、それが嬉しかった。
俺は気が向くままに何曲も演奏した。
心から満足して、ギターを下ろして空を見上げたら、空が青くて、とても高くて、すごく綺麗だった。
カーテンから出ると、想像の三倍くらいの人たちが俺の曲を聴きに来ていてちょっとびびった。
でもタバトさんが説明してくれていたから、俺を見て拍手をしたり話しかけたりしてくる人たちは誰もいなくて、みんな俺のほうを見ないふりをしてくれているのが面白くて嬉しかった。
こんなの全然歌ってみたじゃないけど、異世界流歌ってみたを俺は大好きになった。
そしてカーテン横の箱からは本物の投げ銭と感想の紙があふれ出していた。
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