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第11話 異世界人の心の扉
今日は俺の家で、ちょっと仲良くなった若者たちとフランツ君とおしゃべりしていた。
今までは自分の家にフランツ君とタバトさん以外の人がいると、なんとなく緊張して居心地が悪かったんだけれども、最近は全然そんなことなくなってきた。
それでも俺の異世界人特有の、人との関係で疲れやすいってことをフランツ君とタバトさんが心配してくれてて、こうしてたくさんの人と家で話す時には必ずどちらかが参加してくれる。
過保護だなって思うけれども、ありがたいはありがたかった。
「それでね、花屋の子に花を贈ったら、店にいっぱいあるのにって言われたけど、でも喜んでもらえたと思う?花屋の子に花はだめだったかなあ」
近所の八百屋で働いているロナルド君が言う。
「花屋に花!てかなんで?」
突っ込むのはミリーさん。
「だって花が好きだから花屋で働いていると思って」
「一理あるな」
リヒト君はいつも冷静。
そう。俺は今、恋バナに参加している。
恋バナだよ!恋バナ!!
元の世界では恋バナなんて居心地が悪くてしんどいだけだった。
当たり前に好きな相手は異性だという前提で続く会話は、聞いているだけでも気が滅入った。いつ自分に振られるんだろうってはらはらしたし、振られたら振られたで無理やり嘘をつくしかなくて、後で落ち込むことばかりだった。
恋人がいないと言えば、どうやって恋人を作るかって話で盛り上がって、みんな相談に乗ってくれている、親切で考えてくれているってわかってはいたけれども、前提がそもそも違うから、かわいい女の子をゲットする方法なんて1個も教えてもらう必要がないし、そういった会話のたびに男が好きな俺は存在を否定されたような気持ちになって苦しかった。
でもこの世界は違う。異性でも同性でも愛に違いはないというこの世界では、恋バナだって堂々とできるんだ。
「ソーさんはツァヴァトゥさんとどうなのよ」
って当たり前に聞いてもらえる。
俺は照れてもいいし、盛大に惚気たっていい。
俺がタバトさんを好きだってことを全員知っているし、全員それを変なことだなんて思っていない。
それが嬉しくて、楽しかった。
俺は恥ずかしかったけれども、恋バナに挑戦してみることにした。タバトさんと自分とのやりとりを事細かに説明して、俺がこう言ってタバトさんはこう言ってって話をすると、みんながにこにこしながら聞いてくれる。
「それでね、タバトさんに、俺でもいいの?って言われたんだけど、それってどういう意味なのかなって思って」
「ツァヴァトゥさんに聞いてみてないんですか?」
「聞けないよぉ」
「え?なんでですか?聞けばいいのに」
「だってさ、軽い気持ちで言っただけだったら恥ずかしいじゃん」
俺が言うとフランツ君含め全員が首を傾げた。あ、そうそう、異世界って割とこういうところある。俺が恥ずかしいと思うほとんどのことが、あんまり理解してもらえないんだ。
でもこれは異世界というより、日本人特有の感覚なのかもしれない。
でもあんまり理解してもらえなくても、よくわからないけど恥ずかしいらしい。とはわかってもらえるから、それはそれでいいと思う。
「でもさ、聞くまでもないんじゃない?だって明らかにツァヴァトゥさんってソーさんのこと好きじゃん!」
ロナルド君に断言されて、俺は自分の顔がにやにやしてしまうのがわかった。俺もそうじゃないかなって思っていたけれども、人の口から聞くっていいね。
「そうよね。それにソーさんは異世界人だから」
ミリーさんに言われて、俺は一瞬固まった。
「だな」
リヒト君が納得したのを見て、俺は言葉が出なくなってしまった。
異世界人だからって何?
俺が異世界人だから、だからタバトさんは俺のことが好きってこと?
違う?
もしかして俺が異世界人だから、タバトさんは俺の希望通りにしてくれるってこと?
暖かくてほかほかしてふんわりしていた心が、冷たい水を浴びせかけられたみたいに、一瞬のうちに冷え切ってしまった。
「え、それって」
声がかすれた。
「ツァヴァトゥさんも絶対ソーさんが好きだよねっ」
それは俺が異世界人だから?
「ソーさん、どうしたの?」
フランツ君の心配そうな声がなんとか耳に届いた。
俺がフランツ君を見つめると、フランツ君は焦ったような表情になった。
「大変です。ソーさんが何かにショックを受けてる!ちょっとみんな黙って」
あ、フランツ君、俺の表情からそんなことも読み取れるんだね。ありがとう。ふがいない大人でごめんね。
「ソーさん、どうしたんですか?誰か何か気に障ることを言いましたか?」
あ、ううん。気に障るとかではなくて、全然、あの、俺、そんな可能性を全然考えてなかったから、そんな自分にショックを受けたというか。
タバトさんが異世界人だから大切にしてくれているだけだとか、俺の希望を叶えるだけのために恋人になってくれるとかそんなこと考えてなかったから、だから。
でもタバトさんは言っていた。
異世界人の望みは何よりも優先されるって。
それって恋人とかそういうこともそうなの?
「教えて、ソーさん、どうしたの?」
フランツ君に言われて、一生懸命言葉を探す。
「あのさ、タバトさんは俺が異世界人だから好きなのかな?俺自身が好きとかじゃなくて?」
ああっ、全員が首をかしげている。全然理解されてない。
「ええと?ソーさんは異世界人だから、ええとソーさん自身を好きって、でもソーさん自身は異世界人だから」
フランツ君がなんとか理解しようとしている。
「ええとね!俺が異世界人だからタバトさんは俺が好きなの?それとも俺が異世界人じゃなくても俺が好きなの?俺じゃない異世界人がいたらタバトさんは俺じゃない異世界人でもいいの?」
「ええと?ソーさんは異世界人だし、ここにはソーさん以外の異世界人はいないから」
ああっ。全然通じてない。
俺はとても寂しい気持ちになった。仲良く恋バナをしていても、みんな俺の気持ちが理解できない。
それにタバトさんも俺が異世界人だから好きなだけなのかもしれない。
それどころか、別に好きでも何でもなくて、単に俺がタバトさんを好きだから、俺の望みを叶えるために恋人になってくれるだけなのかもしれない。
だって、俺の幸せはこの国の豊穣に関わってくるから、だから、だから。
「大変です。ロナルドさんっ、今すぐツァヴァトゥさんを呼んできてください。理由は分からないけども、ソーさんの心の扉が閉じそうになってるっ」
心の扉?
「心の扉?」
「ええ!異世界人の心には扉があるって、取説に書いてあるってツァヴァトゥさんから聞きました!何かつらいことがあると心の扉が閉じちゃって、完全に閉まってしまうと開けるのはすごく大変だって!!扉の前で踊ったり歌ったりしないと開かないって取説に書いてあるそうですよ!」
うん。確かにさっきまで俺の心の扉はゆっくり閉まろうとしていた。
でも、ごめん。その取説は正しいけれども間違っている。それは天の岩戸の物語でしょ!?異世界人取扱説明書!どうなってるの?なんか混じってるよ!
俺はつらい気持ちよりもツッコミ心が少しだけ上回って、閉まりかかった扉がうっすら開くのを感じた。
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