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第12話 異世界にデリカシーは存在しない

ロナルド君が駆け出して、ミリーさんとリヒトさんは心配そうな顔で俺のことを覗き込んでいる。フランツ君は温かいお茶を淹れてくれた。 うん。ありがとう。 そうだね。まずはタバトさんに聞いてみないと。すごく怖いけど。あんまり聞きたくないけれども。 でも、100万歩譲って、タバトさんが俺が好きな理由が「異世界人だから」だったとしても、それは悲しいけど仕方ないと思う。 それでも俺はタバトさんに恋人になってもらいたい。 なんか悲しいけれども、でも俺は異世界人だし、近くに他の異世界人もいないから。 でも、タバトさんが職務や義務として、俺の望みを叶えるために俺の恋人になってくれようとしているのなら、それは絶対だめだと思う。 そりゃ国の豊穣は大切なことだし、タバトさんは王都警備で俺の担当者だけど、でも、タバトさんが犠牲になるのは良くない。 犠牲という言葉が思い浮かんだとき、俺は泣きそうになった。 タバトさんが国の豊穣のために犠牲になるのは絶対嫌だ。 だったら俺はちゃんと1人で幸せになってみせる。だから大丈夫。大丈夫だって言おう。 大丈夫。だって俺はこの世界では小柄でかわいくて綺麗なんだから。だからタバトさんじゃなくても、きっと素敵な恋人ができると思う。だから大丈夫。 俺は両手を握りしめて、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせていた。 家のドアがバンと大きく開いた。 「ソウ!どうしたんだ?なにかあったのか?お腹が痛いのか?」 お腹は痛くないよ。心が痛いんだ。でもタバトさん、それってわかる?異世界人はお腹だけじゃなくて心も痛くなることがあるんだけど、それはこの世界の人も一緒? 息を切らして駆け込んできたタバトさんを見て、やっぱり好きだなって思う。かっこよくて優しくて、こんな人誰だって好きになるに決まっている。 「何があったんだ?」 どうしよう。何から話そう。 「あのね!あのね!私たちツァヴァトゥさんの話をしてたの。ソーさんはツァヴァトゥさんが好きでしょ!?それでね、ツァヴァトゥさんだって、絶対ソーさんのこと好きだよねって話をしてたの!」 ミリーさんがいきなり全部言って、俺は絶句した。 「そう!みんなで恋バナをしてたんだよ!ソーさんはツァヴァトゥさんが好きで、ツァヴァトゥさんがソーさんに「俺じゃダメ?」って聞いたんでしょ?それってどういう意味かなあって話をしててね」 「ツァヴァトゥさんはソーさんの事、好きですよね?」 わあああああ!俺は叫びだしそうになった。 嫌だ。なんで全部しゃべっちゃうの!? 俺まだタバトさんに自分の気持ちを伝えてないのに。なんで全部勝手にしゃべっちゃうの? 「好きに決まってるよ!大好きだよ。当たり前だよ」 タバトさんが大声で言った。 「そうよね!ああよかった」 「ですよね。よかった。じゃあこれで両思いですね」 「めでたしめでたしだな」 ちょっと待って!全然良くないよ。全然!良くない! 俺の異世界人の心の扉が、ぎいいいいって音を立てて閉じていくのがわかった。この世界の人たちはデリカシーってものが全然ない! 何がめでたしめでたしなの?全然めでたくなんてないよ! 俺はタバトさんにまだ好きだって言ってなかったし、タバトさんからも聞いてなかった。タバトさんに好きだって言われて嬉しいけれども、でも、違う! 二人きりで、どこかロマンチックな場所で、「好きだよ、ソウ」みたいに言われて、俺はこくんと頷くか、「俺も」とか言って、それでそこでキスするとか、そういう事を考えていたのに! デリカシーってもんはこの世界にはないの?  もう嫌だ! 俺の心の扉は完全に閉じかけていたけれども、内側からの圧力でばんっと大きな音を立てて全開になった。 「みんな!デリカシーなさすぎ!」 俺は怒鳴った。 「デリカシー?」 ああっ、この世界にはデリカシーって概念がない。この世界に存在しない言葉を使うと、自動翻訳機能が壊れたみたいに、みんな戸惑った顔になる。 「無神経!ガサツ!考えなし!」 俺は異世界に来て初めて怒った。 俺は現代日本からこの世界に降りてきて、保護してもらって親切にしてもらっていた。別にここの人たちが召喚したわけではなくて、勝手に来たのだから、ここの人たちに文句を言ったり怒ったりするなんて、そんなことはありえなくて、どんなに考え方や文化が違ってもそれは、この異世界に来た俺が合わせることだって思ってた。 でも、そんなの関係ない。 俺は怒った。 だってこれは俺の初めての恋なんだよ! だから27年分のロマンチックな妄想が全部入っているんだ。 タバトさんに馬に乗せてもらって、素敵なところに連れて行ってもらって、それで告白してもらう予定だったんだ。 タバトさんはすごくかっこいい。 背が高くてたくましくて、ほりの深い西洋人顔。髪も眉毛もまつ毛も金色で、目は優しい水色で、つまりすごく王子様みたいだから、だから馬は茶色だけれども、白馬に乗った王子様のイメージにぴったりだから、だから俺は、ロマンチックな期待を全部、全部乗せしてた。 それをみんなで寄ってたかって、俺の気持ちを全部言っちゃって。 しかもタバトさんもこんなところで答えちゃって。 俺が好きなの?好きなの!? 嬉しいよ! 嬉しいけどね。 「全員無神経すぎる!ここに座りなさい!」 俺が怒った勢いで言うと、全員ちゃんと椅子に座りなおしてくれた。 もう!理解できるまで説教してやる!

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