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第21話 いろんな準備
専用の道具と洗浄剤を使った準備はすぐにできた。回想するのも反芻するのも恥ずかしいから、なんかぼやっと思い出そうとしているけど、準備に問題はなかった。
それで、俺は専用の軟膏を手にしたまま、ベッドに座って一人で固まっている。
これを指でたっぷりそこに塗り込んで、中に指を入れて、ほぐしながら中にも塗り込んでいくんだと思う。
シミュレーションは何度もした。
リヒト君はタバトさんにしてもらったほうが盛り上がるって言ってたけど、でもちょっと自分で確かめてみたほうがいいと思う。
けど、ちょっと怖い。
俺はもしかしたら怖がりだったのかもしれない。元いた世界では特に怖いものなんて意識したことなかったけれども、火も怖いし馬も怖い、そこに何かを入れて広げてみるとか結構怖い。
いや、でもこの世界の人たちは当たり前にしている行為で、それに向こうの世界の人たちだって大っぴらにしてないだけで、している人たちはいっぱいいたはず。
トントンとノックの音がして、俺は慌てて手に持った軟膏をベッドの横の引き出しに隠した。
夕方のいつもの時間だからフランツ君が来たんだとわかっていたし、この世界では雑貨屋で売っている商品だわかっているけれども、それでも俺は恥ずかしい。
フランツ君は俺が挙動不審なのを分かっていて、その理由ももちろん知っているけれども、俺をそっとしておいてくれて、食事作りやいつもの家事をすると、いつもより早めに帰って行った。
タバトさんの仕事が終わって、そろそろ来てくれる頃だ。
タバトさんの仕事はいつも同じ時間に終わる。残業というものはないらしい。
王都警備だというから、タバトさんのことは最初は警備員さんみたいに思っていたけど、実際のタバトさんは立派な正騎士だった。騎士は他国との戦争に行ったり国内のもめ事を武力で解決する騎士団と、王都の警備や王族の護衛などを行う騎士団で仕事が違うらしくて、タバトさんは戦わない方の騎士団所属らしい。
って、その話を聞いた時には、騎士団の構造なんかよりも何よりも、
え!?この国戦争があるの!?
ってそっちにめちゃくちゃ怯えてしまった。
だって俺、80年も戦争やってない国の人だから。学校で平和教育も受けたしさ、修学旅行で平和記念公園も行ったしさ、もちろん異世界物のバトルシーンは嫌いじゃなかったけど、でもどちらかというと人間の敵を倒すよりも、魔獣とか魔王とか、そういう人間じゃない存在と戦う話のほうが好きだった。
でも、恐る恐る聞いてみたら、ここ何十年かは戦争は起こっていないらしくって、とりあえずは安心した。国王様が平和主義で、武力よりも外交で諸外国との関係を築いているらしい。
「へえ、すごい王様だねぇ」
説明してくれたタバトさんに返事をしたら、
「会いたいなら謁見できるよ」
と、軽く言われて驚いた。
この世界には驚かされっぱなしだから、もう何を言われても驚かないだろうなんて思ったりもしたけど、もう全然。新鮮に驚ける。
「本当は異世界から来られた方々は王宮か神殿で大切に保護したいところなんだけど、そうすると異世界人は弱ってしまうらしくって、それで特に希望されない限りは、国の中枢に関わらせたりはせずに、市井で暮らしてもらう方針なんだって。でも会いたかったら会えるよ」
王様に!?
この国の国王様に!?
王様という存在はロマンがある。
イギリス王室とかタイ王室とか、とにかく王様がいる国にはもとからロマンを感じていた。そして異世界ファンタジーが流行ってからも、王様とか、王弟とか、王太子とか、王配とかそういう言葉にいちいち萌えていた。
王様に会えるの?
って一瞬ファンタジー好きミーハー心が騒いだけれど、でも、この世界は物語の中ではない。王様は国の為政者として日々忙しく働いているお方なのだから、用事もないのにわざわざ時間をとって会ってもらうのはよくないと思う。
って、なんでこんなふうにずっと考えているかというと、一応洗浄剤を使った準備はもう一度して、引き出しにしまった軟膏は再び取り出して、でもそれから先、どうしたらいいか分からなくて、ただただひたすら現実逃避していただけなんだ。
そして、王様の普段のお仕事とか、宰相様というポジションも萌えるとかそんなどうでもいいことを考え続けていたら、トントンと柔らかいノックの音がして、タバトさんがやってきた。
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