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第22話 婉曲話法の限界

タバトさんが入って来た時、俺は緊張と現実逃避で脳みそがぐちゃぐちゃだった。 タバトさんはベッドの上に座る俺と手のなかの軟膏を見て、一度微笑んで、俺の顔を覗き込んで、そして真顔になった。 「ソウ、どうしたの?」 俺は無理やり笑おうとして、諦めた。 「あのさ、俺、タバトさんと両想いになったでしょ?」 うん。とタバトさんが頷いてくれる。 とっくの昔に両想いだった事実ではなくて、言葉で確かめ合ったところから俺がカウントしていることをタバトさんはわかってくれている。 「だからね、あの、そういうことがしたいと思ってね?」 「そういうこと?」 ああ、婉曲話法についても異世界人取扱説明書に書いておいてほしい。 あ、でももしかしてこれって、俺が異世界人だからじゃないのかもしれない。 単に俺がなんの経験もない奥手な人間だってだけかも。 だとしたら、手間かけて申し訳ないけれども、「ソウ取扱説明書」を別に作って書いておいてほしい。もちろんタバトさんだけが読む用に。 「あのね、俺っ、た、た、タバトさんと、せっ、セックスがしたいんだけどもね、ええとその話をする前にね、婉曲な話し方について、お願いを聞いてほしいんだ」 「婉曲?」 タバトさんが首をかしげながら頷いた。 ベッドの隣に座ってくれて、軟膏の瓶をぎゅううううっと掴んでいた俺の手をほぐすようにして、手から軟膏を取って、指を握ってくれた。 「ええとね!ええと、あのセックスのことはエッチって言ってほしい!それでね、それでええとその、入れる方のものをそれとこれって言って、入る方の場所をそことかここって言ってほしいんだ」 タバトさんは首をかしげたまま頷いた。 「ごめん、ソウ、一度だけちゃんと確認していい?合ってたら婉曲話法で話すから」 俺は頷いた。 「ソウは肛門性交の話をしてるんだよね。それで男性器がそれあるいはこれ、肛門がそこあるいはここ。で合ってる?」 俺は両手で顔を覆いながら頷いた。 合ってます。 それで完全に合ってます。 「わかった。恥ずかしがらせてごめんね」 俺は首をぶんぶん振った。 俺のほうこそ、異世界人のなかでも特にめんどくさいタイプの恥ずかしがりでごめん。 「ええと、あの、すごくうれしいよ。ソウがええと、エッチしたいなって思ってくれたこと」 うん。 「でも、なんでそんなに緊張してるの?たぶんソウの世界とすること変わらないはずだけど」 異世界人取扱説明書にはR18部分がある!あるとは思っていた。だって大事なことだから。 そう。これは大事なことなんだ。恥ずかしがってもじもじしてあいまいにしておいたら、タバトさんが困るだけでいいことなんて一つもないと思う。 「ええと、あの、俺は、元の世界でなんにもしたことがないから、だから、同じとか違うとかはわからない」 「なんにも?」 「なんにも」 「なんにもって、ええと?そこにそれを入れたことがないってこと?それともいろんな行為全部?」 「ぜ、全部」 「ええと、そこやそれを触ったりとかも?」 「う、うん」 「ええと触ったり舐めたり舐めあったりも?ええとそれを挟んでこすったりも?そこに指を入れたりとかも?」 あああああ。婉曲なら大丈夫というわけでもなかった!!単語を言い換えたところで、内容が内容だから結局はめちゃくちゃ恥ずかしかった。 俺は顔も耳も熱くて思わず顔を覆ってしまった。 「ええと、ソウ?もししたくないなら無理にしなくてもいいんだよ」 あっ、リヒト君と同じ誤解をしている。え?この世界だと27歳だったら何の経験もないのってそんなに変なことなの?元の世界は……、元の世界はどうだったんだろう。 「したくないわけじゃない」 なんとか声を絞り出す。 「ええと?何か神聖な身分だったの?異世界には神子や聖女はいないと書いてあったけれども、ええと?出家?神様に仕えてたの?」 この世界の異世界人取扱説明書はすごい。間違いもあるみたいだけど、出家なんてシステムにまで触れているなんてすごすぎる。 でも、違うっ。 え、取説には単にモテなくてなんの経験もない人の存在は書いてないの?結構いたと思うんだけど。少なくとも出家してる人よりは絶対多いと思う。 「あの、ええと、俺はモテなくて、だから恋人もいた事なくて」 俯いたまま言うと、タバトさんは俺を抱き寄せて膝のうえに横抱きで乗せてくれた。 はあ、気持ちがいい。温かくてたくましくていい匂いがする。 俺はタバトさんの身体に頬をこすりつけた。 「ソウがモテない?信じられないな。こんなに可愛くて綺麗なのに」 俺は嬉しくてぎゅううっとタバトさんに抱きついた。 誰に言われても嬉しいけれども、やっぱりタバトさんに言われたら一番嬉しい。 「じゃあ経験がないから、そんなに緊張してるってことだね」 俺は頷いた。 「ええと、ここに何かを入れたことは?」 するりとお尻を撫でられた。 俺はぶんぶんと首を振った。 「じゃあ、俺に任せてね。大丈夫、無理はさせないから」 俺は今まで悩んでいたことが全部溶け出していくのがわかった。タバトさんは何でも解決してくれる。今までだってずっとそうだし、これからもずっとそうだ。 だから、全部お任せしておけばいい。 俺は長々悩んでいたことから急に解放されて、ただタバトさんの腕の感触を楽しんでいた。

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