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第28話 番外編 フランツ君の物語2
異世界人に名前はさとーそーたろーだと教えてもらった。聞き取れたけれども自分で言おうとするとうまく言えなかった。
だから当たり前の呼び方として旦那様と呼ぼうとしたら、さとーそーたろーという異世界人はものすごく焦った様子で「旦那様はやめて!ソーでいいからっ」と遮られた。
ソーさんはものすごく異世界人だった。
男性にしてはやや小柄な体つきに黒髪と黒い瞳。それは異世界人の特徴として知っていたけれども、眉毛もまつ毛も真っ黒で、とても神秘的で驚いた。
顔立ちも自分たちとはどこか違っていて、凹凸が少なくて、そのせいか分からないけれども表情の変化も小さかった。
見た目だけではなくて言動もこの世界の人たちとは全然違っていた。
ソーさんは火が怖いと言って、かまどで煮炊きしている間は近づかなかった。
火が怖いなんて、今までどうやって生きてきたのだろう。
「ソーさんは、元の世界では貴族だったんですか?」
ソーさんが黒い目を見開いた。
「貴族?なんで?」
「火が怖いということは、使用人を使っていたってことでしょう?貴族とか、そういう高貴な身分の方だったのでは?」
フランツが聞くと、ソーさんは面白そうに笑った。
「ごじょうわんるーむの貴族」
「ごじょうわんるーむ?」
「うん、俺の家。庶民のお家だよ。火を使わなくてもご飯が作れたりお風呂の準備ができたりするんだよ」
ごじょうわんるーむのソーさんは貴族ではないということだった。
ソーさんは火が怖くてかまどでお湯も沸かせないけれども、フランツがお風呂の準備をするためにお湯を浴室に運んでいると、手伝いに来てくれる。
それはフランツの仕事なのだから、手伝う必要なんてないはずなのに、「ごめんね」と言いながら一緒にお湯を運んでくれる。
何がごめんなのかはよくわからない。
ソーさんには不思議なところがいっぱいある。
フランツがご飯を作って出すと、必ずソーさんは手の平と手の平を合わせてからいただきますと言う。
それは異世界人の食事前の挨拶らしくて、異世界人取扱説明書にも書いてあるらしい。
でもソーさんは必ずその後で、フランツにお礼を言ってくれる。
食べ始める前と、食べ終わって、また手の平を合わせて「ごちそうさまでした」と言ったあとに。それでだいたい美味しかったとか、フランツ君は料理が上手なんだね。とか、褒めてくれる。
お礼を言ったりことは取扱説明書には書いてないってタバトさんが言っていたから、これは異世界人の挨拶とは違う。
フランツはずっと家族のために料理や家事をしてきたけれども、それはお金を稼げないフランツにとっては当たり前のことで、ご飯を作ったことに対するお礼なんて言われたことがなかった。お礼を言う必要があるとも思わなかった。
それにフランツがソーさんの食事を作ったりお風呂の準備をしたりするのは仕事で、フランツは普通にお屋敷の下働きをするよりも多くのお給料を受け取っていた。
だからソーさんがお礼を言う必要はないと思うのだけれども、それとこれとは違うらしい。
ソーさんは表情の変化が乏しいけれども、よく観察しているうちに、ソーさんの気持ちが読み取れるようになってきた。
料理の中のジャガイモをフォークで刺すと半分に割れてしまい、刺せば刺すほどバラバラになっていって、困り果ててスプーンですくっているときなんかは、眉尻を下げて悲しそうな顔をしていたし、フランツが話を聞いて先が細くなっている二本の木の棒を作ってあげたときには、黒い目をきらきらさせながら喜んでくれた。
箸という名の二本の木の棒で食事をとるソーさんを見たとき、フランツはその手の動きから目が離せなかった。
ソーさんの指先がとても繊細に動いている。どう持っているのか分からない二本の棒が、軽やかに食べ物を挟み、口元へと運ばれる。
ソーさんは食べる時にもあまり大きく口を開かない。
すっと背筋を伸ばして椅子に座って、箸を使って食事をする姿がとても美しかった。
フランツは今まで人を綺麗だなんて思ったことはなかった。しかも食べているところが美しいなんて考えたこともなかった。
でも、意識してソーさんをみていると、あまり足音を立てない歩き方、音を立てないドアの開け方や閉め方、食事の時に口の周りを汚さない様に丁寧に食べる姿や、手を洗ったあとのハンカチで手を拭く姿まで、何もかもが丁寧でいつまでも見ていたいほど綺麗だった。
フランツはお世話係になって1週間ほどで、ずっとこの人に仕えたいという気持ちになっていた。
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