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第29話 フランツ君の物語3

フランツがいつものように朝、家事をしに行くと、ソーさんの家にツァヴァトゥさんも来ていた。どうやらソーさんがあらかじめ呼んでいたらしい。 ソーさんはお茶を3つ淹れるように言い、お茶を用意するとフランツにも椅子に座ってお茶を飲むように言った。 いつもソーさんが食事をする丸いテーブルの周りに三人で座る。 ツァヴァトゥさんは立派な騎士様だし、ソーさんは国の豊穣を司る大切な異世界人だから、同じテーブルにつくのはおかしいと思ったが、ソーさんがそうしたいというのなら、それに合わせるのが正しいことだった。 「あのね、あの、ここの文化というか、やり方を否定するわけじゃないんだけどね」 ソーさんは言いにくそうに話し始めた。 「あのね、俺の元いた世界ではね、子どもを働かせてはいけないことになっててね、それで子どもはみんな学校に行ってたんだ」 へえ。とフランツは思った。 「ええと、貧富の差はあるんだけどね、あのお金持ちの人とそうでない人の差はあるんだけどね、でもそれでも、子どもは全員学校に行って勉強していたんだ」  ツァヴァトゥさんもフランツも頷いた。 「あのね、この国を変えたいとかそういうだいそれたことを考えているわけではないんだけどね、俺のお世話係を子どものフランツ君にしてもらうのは、あの、どうしても受け入れられないというか」 フランツは思わずうつむいてしまった。 初めて会ったときもそんなことを言っていた。フランツが子どもなのがだめらしい。でもフランツは子どもだけれども、大人と同じくらい家事ができる。 だけれどもソーさんはそれでもフランツが子どもなのが嫌だと言う。 「あのね、だからね、俺、フランツ君に学校に行ってほしいんだ」 何を言われているのか分からず、フランツは顔を上げてまじまじとソーさんの顔を見てしまった。 ソーさんは困ったように黒い眉毛をひそめている。 「あのね、俺、異世界人の生活費がもらえるでしょ?それでフランツ君を学校に行かせられないかな?お金足りない?」 ツァヴァトゥさんがものすごく驚いているのが見てわかった。でもツァヴァトゥさんは驚きを隠して優しくソーさんに話しかけた。 「ええと?生活費はたくさんあるから、フランツ君が学校に行くことはできるけれども」 「じゃあ、そうしてほしい。俺、自分でご飯作るから。火が怖いけど、慣れれば自分でできるようになると思うから」 「いや、別のお世話係をつけるよ。大人の」 ソーさんとツァヴァトゥさんがどんどん話を進めてしまいそうで、慌ててフランツは口を挟んだ。 「どういうこと?なんで俺が学校に行くの?だってソーさんのお金はソーさんのものでしょ?」 「うん。そうなんだけどさ、これは俺のわがままっていうか、この世界の子どもたち全員を学校に行かせられないことは知っているのに、欺瞞も甚だしいけれども、フランツ君には学校に行ってほしいんだ。だって、あの、もう知ってしまったし」 ソーさんの言っていることのほとんどが理解できなかった。 「それにフランツ君、賢そうだし優しいし」 「優しい?」 ツァヴァトゥさんが聞き返してくれた。 「うん。この前も俺に箸を作ってくれたんだ」 あんな、数十分でできる先の細くなった二本の棒を作ったくらいで?学校に通う費用を払ってくれるって、何で? フランツは混乱した。ソーさんが何を考えているのか全然理解できなかった。なのに心が熱くなって、胸がぎゅっとして、なぜか泣きそうになった。 「ええと、ソウ。ソウのお金の使い方はソウが決めていいけれども、フランツ君はもしここでお世話係をしないなら別の御屋敷の下働きをすることになると思う」 「なんで!?」 「フランツ君はそういう家に生まれたんだ。この年になったらお屋敷の下働きになって、それで自分の食い扶持は自分で稼ぐ。ソウのお金で学校に行ったとしても、フランツ君はお金を稼ぐ必要があるんだ」 「じゃ、じゃあその分も俺のお金から出すのは?」 「それは変だと思う。フランツ君がここで働かないのなら、フランツ君がソウからお金をもらうのはおかしいと思う」 ソーさんは難しい顔をして黙り込んでしまった。 フランツはどうしたらいいのか分からなかった。フランツは学校になんて行けなくて構わない。行けないものだと思っていたし、行きたいと考えたこともなかった。 でも、ソーさんのお世話係としてソーさんのためにご飯を作ったりお風呂の準備をしたりして、ずっとそばにいたい。 「じゃあさ、ソウ、フランツ君に学校に行く前と帰ってきてからここで家事をしてもらうのはどう?お昼ご飯は作っておいてもらうか、外に食べにいけば、フランツ君はソウのところで働きながら学校にも行けると思う」 ツァヴァトゥさんが言ってくれたとき、フランツはどうかそうしてくださいと心から願った。 ソーさんは、子どもに働かせるなんてとか、宿題とかないの?とかいろいろ小さい声で言っていたけれども、最終的にはツァヴァトゥさんの意見に賛成してくれた。 「フランツ君、じゃあこれからも俺のお世話係頼んじゃうけど、ごめんね。ありがとう」 フランツには、何がごめんねで何がありがとうなのか全く理解できなかった。 ソーさんはフランツがただ箸を作っただけなのに、自分が不便になるのを我慢して、自分のお金を使ってフランツを学校に通わせてくれるのに。 フランツはよく分からないながらもソーさんのために学校でたくさん学ぼう。そしてソーさんの役に立とうと決心した。

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