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第2話 ただ会いたくて

 やましい心を誤魔化すように声を張り上げると、ヒーラーはそっとドアを引き開けて部屋の中に入ってきた。  俺は今し方まで作業をしていたのだと言い訳をするようにペンを握り、平静を装って彼に問いかける。 「どうかしたのか? 何か用事でも?」 「……ええ、と」  ヒーラーは躊躇いがちに話し始めようとして、失敗したようだった。何度も話を切り出すために口を開き、喉を震わせようとしてもうまくいかず、苦しそうに胸を押さえて俯くのを繰り返す。  その呼吸が病的なほど浅く速くなっていることに気付き、俺は慌てて立ち上がると、彼を胸に凭れかけさせて背中を優しくさすった。 「落ち着け、大丈夫だ。ゆっくりでいい」 「は、い……」  ヒュウヒュウと喉を鳴らしながらか細く答えるヒーラーに、俺はとあることに気付いて慌てて距離を取る。 「す、すまない! 俺が怖くてそうなってるんだよな、昨晩あんなことをしておいて、守る側みたいな顔をして本当にすまないっ……」 「ち……違います!」  慌てて張り上げられたその声は、彼にとって全力のものだったのだろう。ヒーラーは呼吸の仕方を忘れたかのように何度も咳き込むと、その場にぐったりとしゃがみ込んだ。 「うぅ……」 「ヒーラーっ……!」 「違うん、です……うまく、喋れなくて……」  生理的な涙を滲ませながら言う彼に駆け寄り、体に触れていいものか迷って手を止める。ヒーラーはそんな俺に身を預けるようにもたれかかってきた。 「生まれてから、ずっと……首輪が、あったので……ちゃんと喋るの、初めてで……だから、どうやって、息継ぎするのか、分からなくて…………」  ぽつりぽつりと吐き出される言葉の意味を理解し、俺の胸の内に何故か安堵が満ちる。  良かった。彼に怖がられていたわけじゃなかったんだ。  そう思うと同時に、理性が強く己を戒める。  思い上がるな。事実として自分は彼を陵辱して、傷つけたんだ。口ではこう言っているが、絶対に彼は俺への恐怖を抱いている。彼の優しさに甘えちゃいけないんだ。  肩を抱くこともできず、中途半端な位置で手を彷徨わせながら、俺は彼の言葉に返事をした。 「そうか、考えてみればその通りだな。俺は逃げたりしないから、ゆっくり喋ってくれていいぞ」 「は、い……。うう、性行為のとき、は……うまく、できたのに……」  しゅんと肩を落とし、目を伏せる彼を前にして、『可愛らしい』という場違いな感想が頭をよぎる。  バカなことを考えるな。彼は本気で落ち込んで、悩んでいるんだぞ。弱った相手に色気を感じるとか、人として最低だ。 「そ、それより俺に何か用があったんじゃないか? ゆっくりでいいから教えてくれ」 「え……」  彼は顔を上げると、心細そうに目を泳がせ、たっぷり十秒は経った頃にようやく言葉を発した。 「お邪魔、でしたか……?」 「えっ」 「僕、は……アレクさまに、会いたくて……ただ、それだけで……」  いじらしい乙女のようにそう言うヒーラーに、反射的に有頂天になる。俺は、自分の頭を自分で殴りつけた。  ゴンッと鈍い音がして脳が揺れたが、これぐらいしなければ正気が焼き切れそうだった。 「あ、アレクさまっ……!?」  突然の俺の奇行にヒーラーはおろおろと困惑する。俺は引きつってしまう顔を何とか穏やかな笑みの形にした。 「何でもないよ。邪魔にも感じていない。むしろ誰かの知恵を借りたいところだったんだ」

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